No title
「ん、ふ……っ」
「真ちゃん、左手……退けろよ」
声を洩らさないようにと口元を覆っていた左手に、高尾の指が絡んだ。
しゅるっと衣擦れの音がして指先のテーピングがゆっくりと外されてゆく。
「声、我慢しなくていいから」
「いやなのだよ――っ」
声など恥ずかしすぎて聞かせたくない。なのに、高尾は手首を口元から引き離し、あろうことか指先に舌を這わせてきた。
「ふ、……く……っ」
ぞわっと、全身の毛が立ちあがり感じたことのない快感に体が震える。
「ぁ、ぅ、やめっ」
くちゅくちゅと濡れた音が響き、視線が絡む。真っ直ぐに見つめられて、ぞくりと背筋が粟立った。
「あ、あっ……たか、やめるの、だよっ」
限界が近くなったオレは、自然と荒くなって乱れてしまう呼吸をどうすることも出来ずに、性器を握る高尾の手を右手で押さえて動きを封じようとした。
そうしないと、あっという間に達してしまいそうだったから。
それなのにコイツは。
「真ちゃん今更だっつーの。我慢しなくてイイんだぜ? 俺の指で真ちゃんが気持ちよくなっちゃうとかサイッコーじゃん」
ぺろりと口元を舐め、再び左指に赤い舌が絡みつく。
高尾の目が鋭く光りオレを見た。
オレの全てを見透かされてしまいそうな瞳。そんな目で見つめられたらオレは――っ。
「あ、だめ、だっ! ふ……あ、……あっ」
指を舐める舌先に合わせるように、性器に絡んだ指先が構わず扱くスピードを上げてゆく。
濡れた音がくちゅくちゅと頭の中で響き、感じたことのない強烈な快感に身体を震わせると同時に、オレは自分と高尾の手の中に精を放った。
「――っ」
ハァハァと乱れた呼吸を整えるオレの頭上で、高尾の喉が鳴るのがわかった。
「真ちゃん……やっべ、超可愛い……っ」
可愛いわけがないのに、高尾は興奮しきった顔をしてハァハァと荒い息をしている。
「なぁ、俺もう我慢できない!」
「ち、ちょっと待て!」
文字通りがばっと襲いかかってきた高尾の身体を両手で突っ撥ねた。
「なんだよ」
「高尾……そ、その……いきなり痛いのは……い、イヤなのだよ……」
「!?」
オレとてこの後の展開がわからないわけではない。
恥ずかしすぎて思わず視線を逸らしてしまったが、それが高尾の何かに触れたらしい。
口をパクパクと開けたまま固まってしまった彼に思わず首を傾げた。
「たか……」
「っ! 〜〜〜〜っ。真ちゃんも〜、可愛すぎんだよバカっ!」
弾かれたように顔を上げた高尾は、これ以上ないくらい真っ赤になって部屋から飛び出して行ってしまった。
――一体、なんだったのだよ。
開きっ放しになったドアをぽかんと見つめ、じわじわと笑いが込み上げてくる。
ククッ、あいつ。千載一遇のチャンスを逃したな。
もう、オレがアイツに組み敷かれる事は無いというのに。
本当に、馬鹿な奴だ……。