No title

「まさか、馬鹿でイかれるとは思わなかったのだよ」

行為後、ベッドで気だるい身体を横たえていると、緑間が心外だとばかりに口を尖らせた。

「真ちゃんがいきなりあんなこと言うからだろ?」

自分だって、まさか行為の最中に愛の告白が聞けるとは思っていなかった。最上級の不意打ちを前にして冷静でいられる方がどうかしている。

「そ、それに……今日、なんかいつもより激しかったし……」

「……」

「つか、なんかあった?」

夜遅くに会いたいと言いだしたり、ねちっこく前戯をしてきたり、おまけに恥ずかしい事まで言わされてしまった。

緑間がなにを考えてこんな奇行に出たのか気になるところだ。

だが、緑間は答えてくれない。それどころか黙ったまま何やらむつかしい顔をしてしまっている。

「――やはり、妄想と現実は違うのだよ……」

ぼそりと、緑間が小さな声で呟いた。

「真ちゃん?」

上手く聞き取れず、顔を覗き込むとそれに気付いた緑間がギョッとしたように目を丸くする。

「なになに? 妄想がどうとかってなんの話だよ?」

「……なんでもないのだよ」

「なんでもなくないだろ? 気になるじゃん。教えろよ〜」

ツンとそっぽを向いてしまった彼の上に身を乗り出し、頬をつつく。

「妄想ってなんの妄想してたんだよ? なぁ?」

「……」

緑間は聞いても答えない。予想どうりの反応に高尾は小さく息を吐いて緑間の眼鏡を取り上げた。

「なっ!? 返すのだよっ!」

「教えてくれたら返したげる」

「ふざけるなっ!」

「別にふざけてねぇし。つか、マジでどんな妄想してたんだよ。俺、真ちゃんの妄想すっげー気になる」

この堅物な男がどんな妄想をしたら今日の奇行に繋がるのか。謎はますます深まるばかりだ。

「なぁ、教えろって。真ちゃーん」

「五月蝿い黙れ。お前には関係のないことなのだよ」

「いやいや、関係あるっしょ。だからさ、ね? いいじゃん、教えろよ〜」

「……」

そんな押し問答を繰り返し、二人の長い夜は更けていった。

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