No title
「えっとさ……緑間サン。一つ聞いてもいい?」
ベッドにバフンと倒されて、高尾は戸惑いの声を上げた。
「なんなのだよ」
「今現在、何してんの?」
「お前をベッドに押し倒している」
「いやいやいや。それはわかるけどさ、いきなり押し倒すとか意味わかんねぇし!」
ぎこちない手つきでシャツを引き抜きにかかる相手に戸惑いを隠しきれない。
夜に突然来いと言われ家を訪れたまではよかったが、あれよあれよと言う間にベッドへと押し倒された。
強く求めてくれているのは嬉しいのだけど、事情が全く飲み込めない。
「どうして欲しいのだ?」
「……は?」
頭を撫でながら唐突にそう聞かれ、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
(どうし欲しいと言われてもな……)
いきなり過ぎて全く心の準備も出来ていない状態で、どうもこうもねぇよ。と、高尾は思う。そして同時に、真ちゃんは何がしたいんだろうか? と、考えた。
今この状況からして、ヤりたいのだろうという事は理解出来る。だが、いつもならまず段取りを踏んで……いや、違うな。自分が誘ってそれに煽られて真ちゃんがソノ気になってっていうパターンが多いか。
と、言う事はつまり、これが真ちゃんにとって精一杯の誘い文句?
いつも甘い雰囲気を作るのは高尾の方だから、自分でムード作りなんて当然した事がないのだろう。
そう考えたら急に可笑しくなって吹き出しそうになってしまう。
なんという不器用さ! 何そのムードのへったくれもない誘い方。
「……ぷっ、ククッ」
「――なっ!?」
いきなり笑われて、緑間が目をカッと見開いた。よほど心外だったのか口までパクパクさせて。その姿が可笑しくて、高尾は肩を震わせる。笑っちゃいけない。いけないと思うけど、可笑しくて仕方がない。
「なにが可笑しいのだよ」
緑間はムッとした様子で高尾を睨む。おっと、これはマズイとばかりに、高尾は慌てて口元を手で押さえると、込み上げる笑いを必死に抑えた。
珍しく真ちゃんの方から誘ってくれたのだから機嫌を損ねてはいけない。
「……取り敢えず、さ……俺をソノ気にさせてよ」
甘さの滴るような仕草で首に腕を回し、自分の方へと引き寄せる。
あざとい上目遣いで見つめながらそっとキスをすると、緑間の白い喉がごくりと息を呑むのがはっきりと見えた。