No title
半泣き状態で懇願すると、流石に可愛そうだと思ったのか真ちゃんの腕がようやく俺から離れてゆく。
それとほぼ同時。浴室のドアがガラリと開いて、また誰かが中に入って来た。
「なんだよ、すげぇ混んでるじゃねぇか。後でまた入りなおそうかな」
「それは嫌です。何回も着替えるの面倒くさいんで。中に入っちゃえば何も問題ないですよ」
「!」
目は見えなくても、どうやら火神の声は聞き分けられたらしい。
真ちゃんはいきなり立ち上がると「不愉快だから上がるのだよ」と、言って出て行ってしまった。
「えっ、ちょっ……俺置いてくのかよ……」
マジ信じらんねぇ。ありえねぇよ、真ちゃん。
この状態でいきなり俺放置とか、酷くね?
俺だって本当は早く上がりたい。でも、とてもあがれる状態じゃない。
タオルで隠すにしても、限度ってもんがあるし……やっぱ全員男だからわかるだろうし……。
火照った身体は風呂のせいだけじゃねぇ。
「マジ、最悪っ」
いつもなら、とっくに上がってるのに、下半身がとてつもなくヤバイ状況で俺は黙って湯船につかり誰もいなくなるのをひたすら待った。
そして、さっき。やっと黒子と火神が出て行ったんだ。
「高尾、顔が真っ赤なのだよ。早く上がったらどうだ」
流石に遅いと思ったのか、先に上がっていた真ちゃんが様子を見にやってきた。
「つーか、緑間てめっ! 誰のせいだと思ってんだ!」
呼吸が乱れて、全身がダルい。立ち上がろうとしても上手く力が入らない。
「あ、ヤバイ……大声出したらなんか、気持ち悪く……なってきた」
俺の目の前の景色がぐるぐると回りはじめた。
ぐるぐるぐるぐる――。
天井がまわり視界が歪む。
「高尾? 大丈夫か、しっかりするのだよ!」
目が回って、霞む視界の端で真ちゃんが何か言っている。だけどなんて言っているのかがわからない。
だんだんと気が遠くなっていき、やがて俺は意識を手放した。