No title
「高尾くん、顔が赤いですよ。上がらなくてもいいんですか?」
大浴場で湯船に浸かっている俺に、黒子が上がりざまに声をかけてきた。
さっきまで沢山いたほかのメンバーはもういない。
今、風呂場に居るのは、俺と、黒子の二人だけだ。
「あ〜、大丈夫だから。俺の事は気にせず、さっさと上がれよ」
本当は全然大丈夫なんかじゃねぇが、俺には上がれない理由があるんだよ。
俺の心配はいいから早いとここの浴室から出て行ってくれっ!
黒子は、まだ不思議そうな顔をしていたが、やがて火神に呼ばれて渋々出て行った。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ! お前のせいだからなっ」
俺を湯船から上がれない状況に追いやった張本人の真ちゃんを、クラクラする頭で睨むと真ちゃんは湯気で曇った眼鏡を拭きながらククッと喉で笑った。
全ては、真ちゃんが悪いんだ。
真ちゃんがあんな悪戯するから――。
練習後すぐに俺と真ちゃんは大浴場に足を運んでいた。
混み合うのは嫌だったから後で入ろうかとも思ったけど、今日の練習はいつも以上にハードでシャツに張り付く汗が気持ち悪い。
さすが地獄の合宿。いつものメニュー三倍+誠凛との練習試合はきつすぎる。
幸い、中には誰も居なくてちょっとホッとした。
「ふぃ〜やっぱ風呂は生き返るよな〜」
浴槽に凭れて極楽気分に浸っていると、珍しく真ちゃんが側に寄ってきた。
そっと肩を抱き寄せられ身体が密着する。足の間に入るよう促され、後ろから抱かれるような体勢がなんだかくすぐったい。
「なになに? 真ちゃん珍しい。俺の裸見てムラムラしちゃったわけ?」
冗談めかしく聞いてみたら、返事の代わりに俺の濡れた髪や肩に唇が落ちてきた。
「誰かに見られたらまずいんでない?」
「今は誰もいないから構わないのだよ」
ちゃぽん、と浴槽の中で湯が跳ねる。
指と指を絡めながら顔を少し上げたら綺麗な真ちゃんの唇が見えた。
長い指先が伸びてきて俺の頬に触れ――。