No title
薄暗かった部屋にオレンジ色の夕陽が差し込んでくる。
未だ早鐘を打ち続ける鼓動に苦笑し、オレは深呼吸を一つ。
コイツを抱いてしまうのは簡単だ。
だが、そうしない理由に高尾は気付いているのだろうか?
オレ達は男同士だから社会的に歓迎される事は多分一生ないだろう。
家族にも、友人にも、誰にも言えない秘密の関係。
一時的な気の迷いで関係を持ったとして、その熱が冷めたとき果たして元の生活に戻れるのだろうか?
正直言って俺はコイツに溺れてしまうのが恐ろしい。
一度関係を持ってしまったら抜け出せなくなる。そんな予感がする。
もしも、この先高尾に好きな奴が出来たら?
俺は恐らく冷静でいられないだろう。
「どうした、真ちゃんボーッとして。帰るんだろ?」
隣に並んだ高尾は、そう言って笑いかけてくる。
こいつの本気がわからない。
だから、不安で抱けないのだと言ったら高尾はどんな反応をするだろう。
「なぁ、真ちゃん」
「なんなのだよ」
「……学校でスんのが嫌なら、ラブホでもいいんだぜ?」
「……っ、お前の頭の中はそれしかないのか!」
ヘラヘラと笑っている高尾を見ていると頭痛がする。
全く、人の気も知らないで。
少しずつ闇に沈んでゆく太陽を視界の端に捉えながらオレは盛大な溜息を吐いた。