No title

数日後、緑間がいつもどうり家を出ると、近くの電信柱に見慣れた姿を発見し思わず足を止めた。

「よぉ、おはよーさん」

「高尾……もう、大丈夫なのか?」

緑間の問いに、「お陰様でもうすっかり良くなったぜ」と爽やかな笑顔を見せる。
その表情に、緑間の胸が甘く疼いた。ただ隣に立っているだけなのに鼓動の速さが半端ない。

そんな緑間の変化など微塵も気付いていない高尾はさらに

「いい夢も見れたしね」と、付け加え緑間は電信柱にゴチッと頭をぶつけてしまう。

「えっ、ちょ、何どうしたの真ちゃん!?」

「何でもないから気にするな」

まさかとんでもない本音を寝言で聞いてしまったとも言えずに、眼鏡をくいと押し上げる。

「気にするなと言われても……なんかあったわけ?」

「……」

高尾の質問に緑間は答えない。ちらりと彼を一瞥し無言のままスタスタと歩いて行ってしまう。

「おい、無視すんなよ〜」

ぶぅっとふくれっ面をしてついてくる高尾の言葉を綺麗に流して、信号につかまり立ち止まった。

「高尾、お前……俺の事が好きなのか?」

「へ?」

信号待ちをしている間、精一杯の平常心を装って聞いてみた。

あまりに唐突な質問を投げかけられ高尾の吊り目が大きく見開かれる。

数秒の沈黙の後、高尾は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら緑間の制服の袖を引いた。

「……もし仮に俺が真ちゃんの事好きだって言ったら……どうする?」

「!!」

上目遣いで顔を覗き込まれ鼓動が大きく跳ねた。

眼鏡のフレームいっぱいに広がる高尾のドアップに、体温が急上昇していくのを感じる。

心臓はバクバクと早鐘を打ち、息をするのも苦しいくらいだ。

爽やかな制汗スプレーの香りが鼻腔を擽り、それが一層鼓動を加速させた。

予想外の切り返しに驚いて声も出せないでいると高尾の表情が徐々に笑いを堪えるものへと変わっていく。

「ふ、くくくっ何そのリアクション! マジでウケるんだけど!」

「――なっ!?」

絶句する緑間の横で高尾が可笑しさを堪えきれないと言った風に笑う。

「真ちゃんスゲー顔! あはははっ」

「……」

豪快に笑い飛ばされて、今まで悩んでいたこの数日間は一体なんだったのだと腹立たしい気分になった。

眉間に深い皺を刻み睨み付けると高尾はグッと押し黙る。

「そう怖い顔すんなって。つかさ……本当の事言ったらきっと真ちゃん困るだろうし……」

ふっと彼の吊り目に何処か切なげな色が射すのを緑間は見逃さなかった。

「ふん。そんな事……話してみなければわからんだろう」

「えっ? それって……」

驚きに満ちた表情で顔を上げた高尾から視線を逸らし、緑間は再び歩き出す。

「真ちゃん待てって。ちょっ、今のどういう意味だよ」

「……知らん」

フンッと鼻を鳴らし眼鏡のブリッジに手を掛ける。初秋の爽やかな風が火照った頬を撫で熱くなった体温を少し冷やしてくれた。

慌ててついてくる高尾に今までと少し違ったくすぐったさを感じながら、清々しい気持ちで視線を送り心の中でひっそりと呟いた。

(お前の気持ちなど当に知っているのだよ……)



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