No title

「真ちゃんって、そんなに観覧車好きだった?」

「別に。普通だ……ただ、今日はまだ一度もお前と一緒に乗って無いのだよ」

「!」

ゆっくりと上昇していくゴンドラの中で、真ちゃんがポツリとそう答えた。

気を利かせて妹と二人で乗せるはずだったのに、妹は一人で乗るからどうぞと言い出し、狭い空間に二人きり。

まさか妹に気を遣われる日が来るなんて――!

「あ〜ぁ。なんか俺、すげぇカッコ悪い」

一人で凹んでいっぱいいっぱいになって空回りして。マジで最悪だ。

頬杖を突いて窓の外を眺めていると、不意に真ちゃんの指が伸びてきて頬に触れた。

「そう言うな。ヤキモチを妬くお前はそれなりに面白かったのだよ」

「……っ嬉しくねぇっての。つか、真ちゃん悪趣味〜」

人がいっぱいいっぱいになってんのを見て面白がるとかマジで趣味悪い。

「そりゃヤキモチも妬きたくなるって。俺は未だに“高尾“なのに妹は名前で呼んだりしてるし」

「なんだ、そんな事を気にしていたのか」

普通、気になるだろ。

「なぁ、俺の事も名前で呼んでいいんだぜ」

「……そのうち呼んでやるのだよ」

そう言って真ちゃんはふいと視線を逸らしてしまった。

「え〜、なんで今じゃねぇんだよ。名前呼ぶ位簡単だろ?」

「…………」

真ちゃんは答えない。耳まで赤くして窓の外を眺めている。

たく、こんくらいでデレるとかよくわかんねぇ。

「あ〜ぁ、一回でいいから真ちゃんに名前で呼ばれてみたいよな」

静かな室内に、俺の呟きがやけに大きく響く。

「そう腐るな――もうすぐ頂上なのだよ」

ふぅ、と小さく息を吐き、それまで壁に凭れて窓の外を見ていた真ちゃんがゆっくりと起き上がる。

「……高尾。この観覧車の噂を知っているか?」

「噂? いや、知らない」

真ちゃんは一瞬目を伏せ、そして視線を上げた。

静かな視線に真っ直ぐ見つめられどきりと鼓動が大きく跳ねる。

「この観覧車で、頂上に来た時にキスをしたカップルは……永遠に、結ばれるのだよ」

「――っ」

頬に長い指がかかり耳から顎のラインをゆっくりと撫でられる。

「真ちゃん……俺の事、好き?」

思い切って訊ねたら真ちゃんが僅かにたじろいだ。

「俺、いつも不安なんだ……だから、ちゃんと聞かせて欲しい」

真っ直ぐにみつめる。逸らされないように真ちゃんの頬を両手で挟んで答えを待つ。

「……っ……きだ……」

「……聞こえないっつーの、言ってくれなきゃわかんないって……早くしないと頂上過ぎちゃうぜ?」

今まで、沢山キスもしたし、その先の事も沢山してきたけど……たった一言を貰ってない。

もう二度と、俺が不安にならずに済むように、真ちゃんの魔法の言葉が聞きたい。

「……っす、好き……だ」

言われた瞬間、俺は真ちゃんに抱きついていた。

その拍子にゴンドラが大きく傾く。

「あ、危ないのだよ。落ちたらどうする……」

「大丈夫! だって、真ちゃんが人事を尽くしてくれてるんだろ? じゃぁ、このゴンドラも落ねぇよ」

「……っ、フン」

悪戯っぽく笑いオデコをそっとくっつけた。

少しずつ視界が開けて行ってゆっくりとゴンドラが頂上に到達する。

「俺も好きだよ、真ちゃん……」

背中に腕を回し、どちらかともなくキスを交わした。


[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -