No title
「お前が眠るまでは傍にいてやる」
「マジで? 真ちゃん優っさし〜。じゃぁ頑張って起きてようかな」
「……元気そうじゃないか。今すぐ帰ってもいいのだが?」
「冗談だって」
高尾が苦笑する。
「いいから早く寝るのだよ」
光を遮るようにして目の上に手を置き、そっと撫でてやる。
暫くすると、スースーと規則正しい寝息が聞こえ緑間はそっと撫でていた指先を止めた。
そう言えば、高尾の寝顔をこうやって見るのは初めてかもしれない。
いつもの吊りあがった瞳はしっかりと閉じられ長い睫毛がくっきりと影を落としている。薄く開いた唇、枕に流れるサラサラの髪。
綺麗とまではいかないが、それなりに整った顔をしている。
「……真、ちゃん……」
不意に名前を呼ばれ、彼の寝顔を凝視していた緑間はハッと息を呑んだ。
もしかして起こしてしまっただろうか?
だが、規則正しい寝息が乱れる事はなく、ただの寝言なのだと理解した。
全く、夢の中にまで自分が出て来るとは……。一体どんな夢を見ているのだろう?
とても幸せそうな顔をしている為、どうやら悪い夢ではないらしい。
さて、高尾もぐっすりと眠ってしまったようだし、そろそろ帰らないと親も心配しているだろう。
そう思って立ち上がりかけたその時。
「真ちゃん……好きだよ」
「!?」
背後から、確かにはっきりとそう告げられた。
まさか本当はまだ起きていて、オレを動揺させる気か!?
ぎょっとして振り向いたが、何時もの悪戯っぽい表情を浮かべた彼はいない。
なんだ、また寝言か。
ホッとしたように短く息を吐き、眼鏡を押し上げてドアノブに手を掛け思わず立ち止まる。
ちょっと待て。確かにヤツはさっき「好きだ」と言った。(しかも名指しで)
これってつまり――。
『今日の蟹座は恋愛運が急上昇。意外な人物と思いが通じ合える日。特に蠍座の人とは相性もバッチリ。一気に距離を縮めるチャンスかも!』
不意に今朝見たおは朝占いの内容がフラッシュバックして蘇り、ゴクリと乾いた唾を呑み込んだ。高尾は確か蠍座だった筈。しかも彼とは今日のラッキーアイテムでもあるバスケットという共通点がある。
あまりにも衝撃的な事実に気が付いてしまい、思わずよろめいた。
心臓がバクバクと早鐘を打ち、自分のものではないような感覚にさえ陥る。
あの高尾が自分の事を好きだったなんて――!
一体これからどうやって接していけばいいのだ!?
答えの出ない問題に直面した緑間はその夜、眠れない夜を過ごすことになるのだった。