No title
軽めの昼食を食べたあと、俺達はお化け屋敷に行き、コーヒーカップやゴーカート、ミラーハウス等色々なアトラクションを体験しそれなりに楽しい時間を満喫していた。
最初は微妙な距離があった二人も、なんだかんだで楽しそうに並んで歩くようになり確実に仲良くなったみたいだ。
ただ、その分俺の心のモヤモヤは大きくなっていく一方で、話しかけられたら返事はするけれど俯いて歩くことの方が多くなっていた。
このままじゃ本当に真ちゃんを妹に取られてしまうかもしれない。そう思うと無性に悲しくなってきた。
胸が押しつぶされそうになり、息苦しくなって立ち止まる。
陽はだいぶ傾き始め、夕焼けが辺りをオレンジ色に染めていく。
「次が最後なのだよ。あまり遅くなると家族が心配するからな」
「じゃぁ最後はアレ乗りに行こうよ!」
妹が指を指したのは園の真ん中にどーんと聳え立つ観覧車。
「悪い。俺、パス」
「えっ? どうして? 高いところ苦手じゃないでしょ?」
妹が目を丸くして駆け寄って来る。
「気分でも悪いのか?」
「あ〜、うん。まぁ、大体そんなとこ」
あんな個室で二人が楽しそうに話をするのを見るのが辛い。なんて、とてもじゃないけど言えるわけがない。
もう、正直上手く笑えないし、今だって二人の側にいるのが辛いのに。
「俺のことは気にしないでいいからさ、二人で行って来いよ」
「いい加減にするのだよ! 高尾」
低く凄みのある声が間近で響く。不快感を露にして、真ちゃんが眼鏡を押し上げた。
「迷惑なのだよ。さっきから……なぜお前は一緒に行動したがらないのだ」
冷たい視線に胸が痛む。なんで俺が真ちゃんに怒られなきゃいけないんだよ。
「俺、なんも迷惑かけるような事してねぇし。せっかくのデートなんだから二人で行って来ればいいだろ?」
「馬鹿を言うな。お前がいない観覧車など乗ってもつまらんだけだ」
「……っ、なにそれ」
俺、妹の為を思ってずっと自分の気持ち抑えて来たのに迷惑とか、つまらないとか……。
真ちゃん、なんもわかってねぇ。
胸に熱いモノが込上げてきて目頭がじわりと熱くなった。必死に堪えて、それでも堪えきれなさそうで、思わず俯いてしまった。
もう我慢できない。これ以上自分の心を偽る事なんて出来ない。