No title
「あははははっ! スゲー顔だなぁ真ちゃん」
「……っフン。カメラがあるなんて知らなかったのだよ」
ジェットコースターをいくつか梯子して、回転式の超ロングコースターを終えた俺達はぐったりとしてしまった真ちゃんの為に近くのフードコートに足を運んでいた。
その手には、さっき乗った時に撮影された写真が握られている。
「にしても、でかい男がぬいぐるみを握りしめてジェットコースター乗ってるとか……ククっほんと、肌身離さず持ってんだよな〜真ちゃんって」
周りの目を一切気にしない。他人にどう思われようが動じない。色んな意味ですげぇよやっぱ。
「ね、次は何処に行く?」
「ん〜、二人で決めといてくれよ。俺、なんか適当に食いもん買ってくるから」
「おい、高尾っ!」
「……っ」
立ち上がった俺の腕を真ちゃんが掴む。ドキッとして反射的に真ちゃんの顔を見た。
「お前、今日おかしいのだよ」
「そうか? 俺はフツーだぜ。真ちゃんの気のせいじゃね?」
笑って誤魔化し、掴まれている腕をそっと外す。真ちゃんの眉間に深いシワが刻まれているのは敢えて気付かないフリをしてひっそりと息を吐いた。
「おしるこ、あるってさ。真ちゃんはそれでいいんだろ?」
「……あぁ」
視界の端に捉えたメニューを見て笑いかけると真ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
納得できないと言った表情でこちらを見ている。
つか、なんでそんな顔してんだよ。俺、真ちゃん怒らせるようなことしてないのに。
真ちゃんがなんで機嫌悪いのか俺にはよくわからない。でも、俺がやってることは間違いなんかじゃないと思う……。
適当に食えそうなものをチョイスして並んでいる間、ふと二人の様子を伺ってみると、真ちゃんはもう怒ってはいないみたいだった。代わりにお互いの携帯を持ち寄って画面を覗き込んではフッと穏やかな表情で柔らかく笑っている真ちゃんの姿が映った。
ニコニコと楽しそうな妹と、クールな真ちゃん。傍から見れば何処からどう見ても仲のいいカップルにしか見えない。
あんな顔で笑ってる真ちゃん見たことねぇや。俺といるときの顔と全然違う。
俺やっぱ邪魔……っぽい?
そこには俺の知らない真ちゃんがいて、楽しそうに話をしている姿に胸が痛んだ。
頭では妹を応援したいと思っているのに、心がモヤモヤとして気分が悪い。俺の知らない真ちゃんを知っている妹が羨ましい。俺にも笑いかけて欲しいって願ってる自分が居てその矛盾に嫌気がさした。
馬鹿か俺は。妹に嫉妬するなんて兄貴失格じゃん……。
俺いま、どんな顔してんだろう。唐突に気になった。トレーを持つ手が震えている。
笑わなきゃ……。いつもどうりにするんだ。
落ち着け、落ち着け。と心の中で繰り返し二人の方へと近づいていく。
「よぉ、お待たせ。どこ行くか決まったのか?」
「あぁ。次はお化け屋敷に行くことになったのだよ」
「へぇ、お化け屋敷……ねぇ。悲鳴とかあげんなよ、真ちゃん」
「なんで俺が悲鳴なんて上げなければいけないのだよ!!」
心外だとばかりに大きな声をあげる。そんな真ちゃんを見て可笑しさが込み上げて来る。
「へぇ、緑間さんっておしるこ好きなんですね」
「そうそ、真ちゃんは無類のおしるこ馬鹿だから!」
「誰がバカだ! 誰がっ!」
ムキになって否定する真ちゃんが可笑しくてつい吹き出してしまった。
大丈夫。まだ俺、笑えてる。今日一日くらいはなんとかなりそうだ。