No title
「おい、高尾っ」
「なに、真ちゃん。俺、後ろからちゃんと着いて行くから大丈夫だって」
「……」
一応、空気くらいは読んでやらねぇとな。
真ちゃんは何か言いたげだったけれど、さり気なく視線を逸らしてやり過ごした。
それにしても……二人の距離って微妙だな。
人が一人入れそうな距離に違和感を覚える。
ま、相手が真ちゃんだし? 目の前でイチャイチャされんの嫌だから、このくらいがちょうどいいのかもしれない。
ゲーセンに着き、そののんべぇなんとかってシリーズの前にやって来た俺達は早速クレーンゲームに挑戦することにした。
「くそっ、取れないのだよ!」
「真ちゃーん、ちょっと熱くなりすぎじゃね?」
「五月蝿い黙れ! お前は見ていればいいのだよ!」
なんて言いながら、ジャラジャラと積んだ一〇〇円を投入していく。
うわ〜、出たよ真ちゃん負けず嫌い。つか、取れないこと前提に両替まで済ませてるとかどんだけだよ。
ラッキーアイテム収集にかける執念は並じゃない。
「真ちゃん、ちょっと待っててな」
このままではマジで一日これで潰れかねない勢いに耐え兼ねて俺は店員さんの所へ。事情を言って一時中断し、めちゃくちゃ取りやすい位置にぬいぐるみを置き直してもらった。
その結果。
「フン、余計な事をせずとも自分で取れたのだよ」
「へいへい。たく、素直にありがとうって言えないもんかねぇ」
ちゃっかりと左手にトラのぬいぐるみを握り締め、真ちゃんが尊大な態度を取る。
そんな俺たちのやり取りを見つめ、妹は可笑しそうにクスクスと笑った。
「取り敢えず、真ちゃんのラッキーアイテムも手に入った事だし、次はどこ行くんだ?」
「次は、ココに行きたい!」
地図を広げた俺の横から妹が絶叫系がひしめくエリアを指差す。
「だよな〜。やっぱ遊園地に来たら乗らないと。ささ、真ちゃんも行こうぜ! ちなみに、乗らないとか言うのはナシな」
今日はぜーんぶ乗るつもりでフリーパス買ったんだし、楽しまないと。
ゲーセンに来た時みたいに二人を前に並ばせて俺は邪魔にならないようにそっと着いていく。
「じゃぁ俺、後ろに乗るから、お前ら二人で前に乗れよ!」
「おいっ!」
「お兄ちゃんが緑間さんの隣に乗ればいいのに」
「はい? 女の子一人で座らせるとか意味わかんねぇし。つか、俺はいいんだよ。ほら、早く乗れよ」
何か言いたげな真ちゃんを無理やり妹の前に座らせて、俺は真ちゃんの斜め後ろに陣取る。
この位置なら真ちゃんの顔がよく見えるからな。
つか、俺頭いいじゃん。隣に座らなくったって、斜め後ろなら真ちゃんが見える。
……これで、いい。今日は俺、オマケなんだし。真ちゃんと妹が楽しく過ごせたらそれで……。
でももし、これがきっかけで真ちゃん達が付き合うなんて事になったら?
その時は、応援してやらなきゃな。やっぱり、兄貴が妹の好きな奴奪うのは……まずいし。
俺は男で、妹は女。 男女のカップルってのが一番自然だ。
他の女に真ちゃん取られるのは絶対に嫌だ。だけど妹になら……諦められる。
だから、覚悟はしてなきゃな。胸の痛みも、切なさも、締め付けられるような息苦しさも乗り越えられるように……。
てっぺんまで上り詰めた瞬間。ほんの一瞬だけ真ちゃんと目があったような気がした。
「――――っ!!」
物凄い轟音で加速しながら落ちていくジェットコースターの中で、俺は真ちゃんの横顔をずっと見つめていた。