No title
「俺の妹ちゃん、かっわいいだろ?」
「そうだな。お前とよく似ている」
「だろ? 俺の自慢の妹なんだぜ? でも、いくら可愛いからって惚れんなよ! 兄貴としてそれは嫌だかんな!」
冗談めかしてそう言うと、真ちゃんは視線だけ俺に向けて「馬鹿を言うな」と、眼鏡を押し上げた。
「だよな〜。真ちゃんが好きなのは俺だし」
腕にしがみつくようにすると、真ちゃんは迷惑そうな顔をする。だけど、強引に引き剥がそうとはしない。
「何、違った?」
「……まぁ、このおしるこ程度には……認めているのだよ」
「ぶはっ、何それ! 俺おしるこ並!? ヒデー。あはははっ」
真ちゃんは買ったばかりのおしること携帯を持ち替え、プルトップの缶を開ける。
耳まで真っ赤にしながらそんな事を言ってくれちゃう真ちゃんがやっぱ、俺は好きだ。
妹と、一体何を話していたのか、知りたい……。だけど、知りたくない。
複雑な思いが胸に沸き起こる。
「俺は真ちゃん、好きだぜ! もう超好き」
「高尾、声がでかいのだよ」
「んだよ、そこはオレもだ高尾っつって、ぎゅっと抱きしめるとこだろ?」
「フン、馬鹿め。人前でそんな事をするわけがないだろう」
「人が居なくなったら俺を抱きしめて愛を囁いてくれんのかよ?」
真ちゃんは答えなかった。くだらないとばかりに鼻で笑い、さっさと歩いて行ってしまう。
「じゃぁな、真ちゃん。また明日」
「あぁ」
分かれ道になる交差点で、真ちゃんはあっさりと俺に背を向けた。そのまま振り向かないで、見えなくなってしまう。
もう少し話をしていたかったな。
少し寂しいような気持ちで、押してきた自転車に跨った。
――もし、真ちゃんの隣を誰かに奪われる日が来るとしたら?
真ちゃんが俺以外の人を好きになった時、俺はいつもどうりに笑っていられるだろうか?
一人になると、漠然とした不安感に襲われる。
バスタブに浸かり、浴室の天井を眺めながら思わず大きな溜息が洩れた。
ま、真ちゃんみたいな変わりモノの相手出来んのは俺くらいなモンだけど。
真ちゃん顔はいいけどワガママだし、冷たいし、ツンデレだから普通の女の子は近寄らねぇか。
うちの妹ちゃんだって、そのうち飽きるだろ。だってアイツのメール、一言しか返って来ないから。
女の子とメール交換なんて、長続きするはずがない。そう、思ってた――。
いや、そう思いたかっただけかもしれない。