No title
自転車を押しながら、真ちゃんの歩幅に合わせていると雲一つない空に星が沢山瞬いているのが見えた。
秋の夜空は凄く綺麗だ。空気が澄んでいるせいか月が青白い光を放ちながら煌々と辺りを照らしている。
「悪い。ちょっとトイレ行ってくるから適当になんか買っといて!」
帰る途中に立ち寄ったコンビニで、急にもよおした俺は、真ちゃんにそう告げてトイレへと向かう。
「早く来ないと置いていくのだよ」
なぁんて言いながら、外で律儀に待ってくれている所を想像して自然と口元には笑みが浮かんだ。
ところが――。
俺がトイレから出てきたとき、真ちゃんは一人じゃ無かった。
店の外で誰か女の子と話をしているのが店内から見えて胸がざわつく。
慌てて外に飛び出すとそこにいたのは俺の出身校と同じ制服を着て、真っ白な通学用ヘルメットを被った女の子。
長い髪を後ろで二つに縛り、自転車を押しながら真ちゃんを見上げるように何か話している。
一体誰だよ。俺の真ちゃんと話してる奴。なんとなく嫌な気分がしたけど、敢えて普通どうりに店を出て二人に近づいた。
「お待たせ〜って、真ちゃん。ナンパ? もしかして、俺邪魔だった?」
「……おいっ」
わざと明るく言ってやったら、真ちゃんの眉間に深いシワが寄った。相変わらずこういう冗談は通じない。
俺の方に背を向けていた少女が、ゆっくりとこちらを振り返る。
その姿を確認し、思わず絶句。
「あ、お兄ちゃん!」
なんと、真ちゃんと話をしていたのは、俺の可愛い可愛い妹ちゃん。
「な、んで……こんな所に?」
「なんでって、今から塾に行く所なの。そしたら、緑間さんみっけちゃったから……」
花のような笑顔で笑い、「じゃぁまたね」と、自転車に跨って行ってしまった。
そっか、塾……この辺だったな。
一年前の事なのにもう忘れてる俺って、どんだけだよって感じ。
チラリと視線を真ちゃんの手元にやればコンビニに入る前には持っていなかったはずの緑のケータイが握られている。
もしかして、メアドとか交換した? そう、聞きたかった。
だけど何故か、聞けなかった。
「何をしている。行くぞ」
「あ……うん。そーだな。なぁ、俺の妹ちゃんと何話してたわけ?」
「別に。少し挨拶を交わしただけなのだよ」
「へ〜、そっか」
挨拶だけのわりには随分楽しそうだったじゃん。
言ってやりたかったけど敢えて口を閉ざした。
なんか、妹にまで嫉妬してるみたいでみっともない。