No title
高尾が買って来たものを冷蔵庫に入れ、口当たりのいいものを食べさせてから彼を部屋のベッドに寝かせた。横になると直ぐに眠ったように見えたが、サイドボードに薬の入った袋を見付け声を掛けるとうっすらと目を開いた。
「起きれるか? 取り敢えず薬を飲むのだよ」
「真ちゃん、飲ませて」
「……」
何を甘えているんだ! と普段なら一喝するところだが、相手は高熱を出している病人。もしかしたら起き上る事すらきつくてそう言っているのかも知れない。
緑間は仕方がないと呟いて、ベッドに腰掛けると火のように熱い身体を支えた。
左手で錠剤を取り出し数を確認してから口元へと運ぶ。
「俺、出来れば口移しがいいんだけどな〜」
苦しげな顔をにやりと笑みに歪ませとんでもない要求をしてくる。
「……っ。何をバカな事を言っているのだよ」
その要求を一蹴し、そのまま口の中へと錠剤を放り込んだ。
高尾はよく、笑えないジョークを言っては緑間の反応を面白がっている。
人を困らせて何が面白いのかは理解できないが悪趣味な事この上ない。
「ちぇっ、ケチ〜」
グラスに注いだ水で錠剤を呑み込んだのを確認し、残念そうに口を尖らせている彼を再びベッドへと寝かせてやった。
そっと汗で張り付いた前髪を指で掬い撫でてやると高尾は擽ったそうに眉を寄せ目を閉じる。
「ごめんな、真ちゃん。心配かけて……」
「……らしくない事を言うな。気色悪い」
「うわっ、ひどっ!」
「悪いと思っているのなら、バカな事ばかり言ってないで早く治すのだよ」
「あはは、だよな〜……」
笑いながら腕に触れる指先すら火のようだ。心配になってその手を握ってやると、嬉しそうに微笑んで身体を擦り寄せてくる。
「おい……」
「悪い、真ちゃん。もう少しだけ……ここにいてくれない?」
「……」
熱のせいで人恋しくなっているのだろうか。切なげに呟く高尾の姿に目を見張った。
自分も早く帰って、夕食を食べたり勉強したりしなくてはいけない。
だが、らしくない姿を目の当たりにしてしまった以上、この広い家に一人置いて帰るのは気が引ける。