No title

「お疲れっす! あれ、宮地さんと木村さん、なんかゲッソリしてないですか?」

夕食時、少し遅れてやってきた高尾は、大坪が作った特製カレーを前に暗雲を漂わせている二人を見て首を傾げた。

「こいつらの部屋……出たんだとさ」

大坪がくだらないとばかりに盛大な溜息を吐きながら、二人を代弁する。

「出たって、何が?」

「幽霊だよ、幽霊!」

高尾は、真っ青な顔をしてガクガクと震える木村と宮地の二人を見つめた。

高校三年にもなって幽霊とかそんなものを怖がるなんてガキも同然だ。

「幽霊? まっさかぁ。つか、こんな早い時間に出るわけないっしょ」

ヘラヘラと笑って全く相手にしようとしない高尾に業を煮やして、宮地がガバッと立ち上がり拳を握り締めた。

「それが居たんだよ! 俺もちゃんと聞いたんだ。『苦しい〜、許して〜っ』て声を!」

「ぶっ、ゲホッゲホッ」

それを聞いた瞬間、それまで黙って食事をしていた緑間が飲んでいた麦茶を、いきなり盛大に吹き出した。

「ど、どうした緑間。お前、大丈夫か?」

「いえ、なんでもないです」

大坪に心配され、ずれた眼鏡を押し上げて元の位置に戻す。ちらりと高尾の方に視線をやれば、身に覚えがあるようで頬を引きつらせてどうしたものかと目を泳がせている。

「とにかく、だ。木村と宮地があの部屋はどうしても嫌だと言ってきかないんだ」

全く困ったやつらだと、大坪は深い溜息を吐いた。

「そこで考えたんだが……木村は俺と同室、宮地は今夜から緑間達の部屋で寝泊りしたらどうかと思う」

「げぇっ! マジっすか!」

「……高尾〜、なんだそのゲェってのは! オレが同室になることに何か不満でもあるのか? 轢くぞコラ!」

目を据わらせたまま、ガシっと肩を組まれ高尾はあははっと乾いた笑いを浮かべる。

「いや、不満なんてとんでもないっすよ。寧ろ大歓迎! な、真ちゃん」

「…………」

同意を求めたが、緑間は何も言わない。それどころか不快感を滲ませため息まで吐く始末。

「アイツやっぱムカつく。いつかマジ轢く!」

「……ハハッ」

もう笑うしかないって感じだ。

険悪ムードの二人と一夜を共に過ごすことになり、今夜は何事も無く終わってくれるよう願う高尾だった。


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