No title
二人がイチャイチャと愛を確かめ合っている頃、隣の部屋では木村と宮地が揃ってテレビを眺めていた。
二人が観ているのは夏の定番とも言える「本当にあった怖い話」だ。
林間学校で古い民宿に宿泊していた学生たちが、次々と恐ろしい目に遭うと言った内容で、二人は固唾を呑んで画面を見つめていた。
「な、なぁ……さっきから何か聞こえないか?」
突然すぎる木村の発言に宮地は肩を竦める。
「何言ってんだよ木村。驚かそうったって無駄だぜ。ビビってんのか?」
「馬鹿違うって! ビビってんじゃねぇ! 本当に聞こえたんだよ。『許して〜って!』
「はぁ!? お前テレビに感化されすぎじゃね? んな声俺には……」
聞こえないぜと、言おうとしたその時、明らかにテレビとは全く関係のない所から何やらボソボソとくぐもった音が響いてきた。
「ほ、ほらっ! なんか聞こえるだろ!」
ほれ見たことかと木村が鼻息を荒くして宮地の肩を揺さぶる。
「い、いや……つか、まさか……」
宮地は頬を引きつらせながら、辺りを見回す。だが、何も変わった所は見つけられずにブルりと身震いを一つ。
「そ、空耳に決まってんだろ! こんな番組見てるから神経質になってんだよ、きっと!」
「そ、そうだよな。つか、じゃぁもういっそテレビ消すか!」
二人は顔を見合わせ、震える手でテレビのOFFボタンを押した。
「……」
「……」
部屋は不気味は静けさに包まれ、二人は思わず息を呑む。
だが、さっきまで聞こえていた(ような気がする)声は何処からも聞き取れず、木村はふぅっと大きく息を吐いた。
「なんだよ、木村。やっぱお前の気のせいじゃねぇか! つかこんな早い時間から幽霊とか出るわけねぇだろ!」
「あれ? おかしいな……さっきまで確かに……」
「耳糞でも溜まってんじゃねぇか? あ〜ぁ、テレビ消して損した」
ホッとして宮地がもう一度テレビの電源を入れようとリモコンに手を伸ばしたその時――。
『ゆ、るして……、く、くるし……』
「!?」
「ほ、ほらっ! 聞こえただろっ! 許して〜って!」
興奮気味に木村が叫ぶ。じっくりと耳を傾ければ啜り泣くような音も聞こえてくる。
「つか、……これって……」
「…………」
くぐもった声は何処からともなく響いてくる。
「ひぃいいいっ」
宮地と木村は全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。