No title
合宿二日目。ハードな練習を終えて部屋に戻って来た高尾は、帰って来るなり部屋の中央にどかっと腰を下ろした。
「あ〜キツかった〜。やっぱ、地獄の夏合宿って名前は伊達じゃねぇわ」
普段の三倍のメニューをこなし、その後緑間の個人練習に付き合い体中がキシキシと軋むようだ。
「よくそんな涼しい顔してられるよな、真ちゃん」
やはり、緑間は凄いやつだと改めて思う。
これだけのハードな練習の後だというのに、備え付けのチェアに座り読書をする姿は、普段とほとんど変わりない。
「俺なんか、もう足がパンパン。痛いのなんのって」
今がこの状態なら明日はどうなっているのか。考えるのもゾッとする。
ふくらはぎを自分でマッサージしながら、一人で喋っていると緑間がちらりとこちらを見た。
「……全く、自己管理がなっていないのだよ」
そう言うと徐に立ち上がり、側にやってくる。
そして見せてみろとばかりに高尾の足に触れた。
へぇ、珍しい事もあるもんだ。いつもなら五月蝿いだの、気が散るだのと言って邪険にするくせに。
返事なんて元から期待していなかったし、まさかこんなサービスしてくれるなんて思ってもみなかった。
「なに、真ちゃんがしてくれんの? マッサージ」
「あぁ。帰りにチャリアカーを引くのはお前だからな。足が使い物にならなかったら困る」
「つーかそれ、間違ってるし! じゃんけんするに決まってんだろ! なんで俺がチャリアカーひくのが当たり前とか思ってんだよ」
文句を言って間違いを訂正してやると、「俺は人事を尽くしているから当然なのだよ」という答えが返って来る。
「何がトーゼンだよ。たく、なんであんなにじゃんけん強いかな……」
くやしいかな高尾は未だかつて一度も緑間にチャリアカーじゃんけんで勝った事がない。
いくら勝負強いって言っても強すぎだろ。
「それにしても……キセキの世代NO、1シューター様に足マッサージさせるのなんて俺くらいなもんだろうな〜」
投げ出した足をゆっくりと揉みほぐしてくれる痛気持ちよさに浸っていると、緑間が眼鏡を押上げ小さく笑った。
「そうだな、俺も他の奴らならこんな事してやろうとは思わん。他ならぬお前だからだろうな」
「……っ。真ちゃん、いきなりそんなとこでデレれんの反則だって」
聞いているこっちがなんだか恥ずかしくなる。