No title

――はぁ、結局流されて最後までシちゃったし。絶対まずいような気がする。

真ちゃんを見送ったあと、なんとなく気まずくて俺は夕食まで自分の部屋で過ごした。

シちゃったもんは仕方ないし、どうこう出来る問題でもないんだけど、やっぱ兄貴としての威厳とかその他色んなモノがあって、それが俺の気分を憂鬱にさせる。

でもま、なんか言われたら笑って誤魔化すか! だんだん面倒臭くなってそう自分に言い聞かせた。

その時丁度キッチンから「夕食だよ」と俺達を呼ぶ母さんの声が聞こえてきて俺はいよいよ覚悟を決めた。まぁ、流石に妹も家族が居る前じゃ聞いては来ないだろう。

ところが

「お兄ちゃん、さっきの人なんて名前なの?」

いきなり訊ねられて手に持った箸を取り落としそうになった。

「し、……緑間だよ。同じバスケ部でレギュラーとってるやつでさ、超頭がいいんだ」

「へぇ、そうなんだ……」

動揺を隠し出来るだけ平静を装いながら答える。

妹はへぇ、そうなんだ〜とかなんとか言いながら、いただきます。と手を合わあせてご飯に箸を付け始める。

あれ? もしかして、気付いてない?

ホッとしたのも束の間、さらに妹の質問攻めは続く。

真ちゃんがどんな奴なのか、とか何が好きなのかとか。

取り敢えず、さっきのは気付いていないみたいだ。

いや〜、マジで良かった。

「緑間さんって、カッコイイね」

「だろだろ? 真ちゃんって、すっげーんだぜ! 特にシュートを打つ時の真ちゃんは最高!」

「いいなぁ、お兄ちゃんはあんな素敵な人と一緒にいれて」

ほぅっと妹が感嘆の溜息を洩らす。

ん? ちょっと待てよ。

調子に乗りかけていた俺は、ある違和感に気が付いた。

まさかとは、思う。だけど――。

「ねぇねぇ、今度学校に見に行ってもいい? 緑間さんの練習してるところ見てみたいな〜」

と、にっこり。

「……っ」

嗚呼、これはマズイ事になったかもしれない。背中にいや〜な汗が伝った。

仮にも俺と血を分けた妹だ。同じやつを好きになったって不思議じゃない。

だが、もし……もしも真ちゃんが俺より妹の方を好きになったら?

なっちゃったら、その時は――?

俺は一体どうなるんだろう。

漠然とした不安感に襲われて、引きつった笑いが洩れた。


もう、二度と家に真ちゃんは連れて来ない事にしよう! 

妹には悪いけど、そう思わずにはいられなかった。


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