No title
「お疲れ様でした!」
部員たちが次々と帰り支度を終えて体育館から出ていく。
静かになった館内に緑間がボールを放る音だけが響き渡る。
「……ふぅ」
綺麗に弧を描いてリングへと吸い込まれたボールを拾い、緑間は本日幾度目かの溜息を吐いた。
なんだかんだと絡んできてはうっとうしいと思う事の方が多いが、高尾が居なければ居ないでなんだか物足りなさを感じてしまう。
別に仲間など必要ないと思っていたのに……この気持ちは一体なんだ?
いつもは無心になってシュート練習に励むことが出来るのに、一人になった体育館は妙に広く感じて居心地が悪い。
「今日はもう帰るのだよ」
一人でそう呟いた所で返事が返って来るはずがない。
その事実にハッとして、何かを誤魔化すように眼鏡のブリッジを押し上げた。
そう言えば、高尾は今頃どうしているのだろう? 熱があると先生が言っていたが明日は来るのだろうか。
ふと、そんな事を考えチラリと備え付けの時計を見やった。
今なら様子を見に行っても迷惑だと言われる時間帯ではないだろう。
電話で様子を確認してやろうか。だが、寝ているのを起こしてしまったらと思うと気が引ける。
具合が悪い日に家にまで押し掛けるのは如何なものかと思ったが、気になって仕方がない。
バスに揺られること数十分。高尾家のチャイムを押す頃には日はとっくに傾いて、頭上に星が瞬くまでになっていた。
夕食時だと言うのに高尾家の明かりは全て消えていて、もしかしたら留守かもしれないと不安が募る。
此処まで来て会わないのは気が引けるが居ないのならば待っていても仕方がない。諦めて帰ろうかと一歩足を引いたその時。
「……真ちゃん?」
ハッとして声のした方を振り向くと、門柱の所に寄り掛かるようにして高尾が立っていた。
ハーフパンツにTシャツだけの簡単なスタイルで、手にはコンビニの袋をぶら下げている。
だが、明らかに体調が悪そうだ。
一人で立っているのも億劫そうに、門柱に手をついて苦しそうに息をついた。
「なんだ、来てくれたんだ……」
やや乱れた前髪を掻きあげ、苦しそうに眉を顰めながらも何処となく嬉しそうな表情をする。
「もう起きても大丈夫……ではなさそうだな」
緑間は眼鏡のブリッジを押し上げると、よろける高尾の身体を支えその体温の熱さに目を丸くした。
「こんなに熱があるのに、出歩くなんてどうかしているのだよ!」
「いや〜、だってさ腹減ったし。今日母さんたちみんな用事で居なくてさ〜。冷蔵庫開けたらなんもねぇんだもん」
苦笑しながら玄関のカギを開ける彼を見つめ、やはり来て良かった。と、改めて思った。