No title
目覚ましが鳴るより先に目が覚めた。
今が何時なのかはわからないが障子の隙間から爽やかな光がうっすらと差し込んでいることから朝が来たのだと推測出来る。
誰かに頭を撫でられている感覚に、一度浮上しかけた意識が遠のいてゆく。
あぁ、なんか気持ちがいい。ほわほわと心地よくてなんだかいい香りがする。このまままた眠ってしまいそうだ。
微睡みの中、もぞもぞと暖かい方へ鼻先をすり寄せた。
「――おい」
幸せ気分に浸っていると、耳によく馴染んだ低い声が聞こえた。
高尾の意識がゆっくりと戻ってくる。
「真ちゃんの匂いがする。すげーいい匂い……」
一瞬、撫でていた動きが止まり、数秒の間のあと指が高尾の瞼に落ちる前髪をそっと掬い上げた。
「まったく、何を言っている。重いから早く起きるのだよ」
口ではそう言いながら、撫でる手はあくまで優しい。
これは夢? それとも現実?
まぁ、どちらでもいい。もう少しだけこの幸せを堪能していたい。
「……」
不意に緑間が撫でていた手を高尾の口元に持っていき、指で唇に優しく触れる。
あぁ、真ちゃんの手だ。俺の大好きな憧れの左手。いつ見ても綺麗な長い指先……。
と、何を思ったか高尾がうっすらと目を開けてその指を咥えた。
「!?」
緑間の指が硬直する。
無意識の誘惑に、ごくりと緑間の喉が鳴った。唾液で濡れた指先に視線が集中する。
「……高尾」
低い声に名を呼ばれたと思ったら、顎を持ち上げられ触れるだけのキスをされた。
夢現を彷徨っていた高尾の意識が現実に引き戻される。瞼を開くと視界いっぱいに緑間の顔があって、ギョッとして僅かに顎を引いた。
一体なにがどうなっているのか解らずにされるが侭になっている高尾の唇に再び羽のようなキスが降りて来る。
唇が触れ合うだけの軽いキスは二度、三度と繰り返され、徐々に深い口づけへと変わってゆく。