No title

爽やかな初秋の風を感じながら、緑間は小脇に今日のラッキーアイテムでもあるバスケットボールを抱え教室にやってきた。

「ん?」

だが、入って直ぐに何か違和感を感じ首を傾げた。

いつもと変わらない風景の筈なのに、何かが足りない気がする。

そう言えば、いつも一番に声を掛けてくる高尾の姿が何処にも見当たらない。

彼の机の上は綺麗に片付いていて鞄が置いてある形跡すらない。

「高尾君は今日、風邪でお休みなんだって」

辺りを見回す緑間に気が付いた女子の一人がそう教えてくれた。

高尾とは、同じ一年でしかも早々からレギュラー入りしている実力者という事もあり、比較的良く話す間柄だ。

いつも騒々しい奴が一人居ないだけでこんなにも教室は静かだったのかと、短く息を吐くと席に着く。

(そうか、アイツでも風邪をひくのだな……)

全く、この大切な時期に風邪をひくなんて。たるんでいるとしか言いようがない。

大方腹でも出して寝ていたのだろう。朝晩の冷え込みが徐々に厳しくなりつつあるこの季節だ、あり得ない話ではない。

まぁ、アイツが練習を休もうが熱を出そうが自分には関係ない。きちんと自己管理できていない奴が悪いのだと、空っぽの机を見つめ小さく息を吐くと一限目の授業の準備を始めた。


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