No title
潮風に乗って磯の香りが鼻腔を擽る。眼下に広がる海は闇に沈み、対岸の明かりが水面にキラキラと輝いていた。
雲一つない空には満天の星と美しい満月。
寄せては返す波の音が心地よく響き、高尾は柵から身を乗り出してその光景を眺めていた。
「うは、すげーすげー。旅館自体はボロいけど、結構いいじゃん」
「あまり覗き込むと下に落ちますよ」
後ろで黒子の冷静な声が響く。
「だいじょぶだって。そんなヘマしねぇよ」
「そうですか。ならいいです」
反応の薄い黒子をチラリと見て、高尾は苦笑した。
「なぁ、キセキの世代って言うのは、みんなこうなわけ? この景色見てもっとなんかねぇの?」
緑間といい黒子といい、反応が薄すぎて面白くない。
「確かに綺麗だとは思います。けれど、そんなに騒ぐような事でもないですし」
「……あ、っそ」
緑間が居たら、きっと似たような事を言うんだろうな。と、高尾は思った。
そんな事を言えば、彼も黒子も嫌そうな顔をするだろうが。
相性が合わないと緑間は言っていたが、そうでもないような気がする。
「……緑間君と、何かあったんですか?」
単刀直入に尋ねられて、高尾は一瞬返答に困った。
そう言えば、黒子とは試合で少し話したくらいで、まともに向き合うのはこれが初めてだ。
「おっと、いきなり来たね。いいじゃん、俺そういうの好きだぜ」
回りくどく探られたり、気になるくせに知らないフリをされるより数倍マシだ。
だけど、タダで教えるつもりは毛頭ない。
プライベートに踏み込んだ話をするなら、こっちも対等な情報を貰わないとフェアじゃない。