No title

後片付けを終えて部室へ行くと、中からなにやらゴトゴトと音がする。
「珍しいな、誰か残ってんのか?」
アレから結構時間が経ってんのに……。そう思いながらドアノブに手を掛けた。
立てつけの悪いドアがキィッと鈍い金属音を立てる。
そして、次の瞬間――。
パン、パーン! と言う、けたたましい大きな音と共に中から何かがオレめがけて飛び出して来た。
「わぶっ、んなっ!? んだよ、コレ……」
訳もわからずぽかんとしていると、後ろから真ちゃんに背中を押された。
「誕生日、おめでとう!!」
「!?」
中には、さっき帰ってしまった先輩たちやマー坊の姿まであって、益々訳が分からない。
「コレは一体……」
「今日は……お前の誕生日、だろう?」
オレの呟きに答えたのは真ちゃんだった。
せっかくだから驚かせてやろうと思ったのだよ。とか、なんとか言われて全身の力が抜けた。
なんだオレ、嫌われてるわけじゃなかったのか。
「高尾! 俺らからのプレゼントだ。ちゃんと受け取れ、よっ!」
木村さんと宮地さんの手から白くて大きな丸いものが飛んでくる。
「お、わっ、ちょっ真……っブッ」
慌てて避けようとしたら、タイミングよく真ちゃんに身体を固定するように押さえつけられた。
モロに顔面にヒットしたそれはべっちょりとしていて甘い。
それが生クリームだと認識した瞬間、部屋中がドッと笑いに包まれて
「あははは! ナイス顔面キャッチ!」
「イイ顔になったじゃねぇか」
なんて声が次々と上がる。
「つかオレ、誕生日に顔面クリームまみれになったの初めてっす」
「一生忘れらんねぇ誕生日になっただろ?」
クックックと笑いながら宮地さんが言った。
「確かに忘れられねぇけど……オレの扱い酷くねぇっすか?」
「いいんだよ、お前だから」
「ブハっ、ひっでぇ」
皆がゲラゲラと笑うもんだから、なんだかオレまで可笑しくなって来て思わず笑ってしまった。

ひとしきり笑った後は、木村さんち特製のフルーツ盛り合わせを皆でつつき、個別にリストバンドだとか、タオルだとか色んな物を貰って(中には使用済みタオルが入っていたり)楽しい時間を過ごすことが出来た。。


「つか、真ちゃんまさかのグルだもんなぁ。全部演技だったなんて……」
マジ、策士だよ。
後片付けを全て終え、皆と別れてからゆっくりと真ちゃん家までの道のりを並んで歩く。
「絶対に、お前に気付かれるなと言われていたのだよ」
流石に疲れた。なんて、珍しく小さなため息が真ちゃんの口から洩れて思わず吹き出してしまいそうになった。
「つか、ありがとな。マジで一生忘れられねぇ誕生日になったわ」
アレ、真ちゃんが企画してくれたんだろう? と、尋ねたら真ちゃんは小さく首を振る。
真ちゃん曰く、言い出しっぺは宮地さんなんだとか。
「そっか、宮地さん興味ねぇとか言ってたクセにどんだけ……うはっ」
そういやあの人、今日一番ノリノリだったもんな。思い出すと、なんだか笑えてくる。
「――高尾」
突然、真ちゃんが歩みを止め、低い声がオレを呼んだ。
「どうした、真ちゃん……?」
何か言いたげに、二、三度口を開きかけ、ずれても居ない眼鏡の位置を整えると突然自分の首に巻いていた赤いマフラーを外し、ふわりとオレの首に巻き付けた。
「!?」
「……俺からの……プレゼント。なのだよ」
それだけ言うと、スタスタと足早に歩いて行ってしまう。
「えっ!? ちょっ……プレゼントって……」
マフラーからは、真ちゃんの香りと温もりが伝わって来て胸がきゅんと甘く疼いた。
「つか、真ちゃん、耳まで真っ赤じゃん……プ、くくくっ」
「五月蠅い、黙れ!」
ズンズンと進んでいく真ちゃんの後を追いながら顔が破顔するのを止められない。
「待てよ、照れんなって。その……ありがとな。すっげー大事にするし」
「当然なのだよ」
あまりにも至極当然と言った風に言うモンだから思わず吹き出してしまいそうになる。
「すっげー嬉しかったからマジ、大事にする。つか、好きだぜ、真ちゃん」
「………俺も、なのだよ」
ぼそりと呟かれた言葉に、一瞬耳を疑ってしまった。聞き間違いでなければ真ちゃん今――。
「え、今……俺もだって言った……?」
「知らん!」
「えっ、ちょっ……ええっ!?」
今日はなんて日なんだろう! 大好きな仲間に祝われて、さらに相棒からの思いがけないプレゼント。
ラッキーアイテムの赤いマフラーを身に着ければ、思いがけない幸運に恵まれるかも!
ふと、今朝見た占いのフレーズが蘇った。
やっぱおは朝スゲーな。
マジで、一生忘れられない日になっちまった。
「なぁ真ちゃん、さっきのもう一回言ってくれよ」
「知らん!!」
時々鼻腔を擽る真ちゃんの香りに胸躍らせながらオレは、もはや小走りになりつつある真ちゃんの後を追った。


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