No title

それから1週間。何事も無く日常は過ぎていき、とうとうオレの誕生日当日。
『今日のさそり座のラッキーアイテムは赤いマフラー! これさえあれば、思いがけない幸運が降ってくるかも!』
最早日課になってしまったおは朝占いをチェックして学校へ行く支度をする。
「赤いマフラー……ねぇ」
オレは真ちゃんじゃねぇから、おは朝に心酔しているわけでもないし、ぶっちゃけ未だに興味もねぇ。
「いってきまーす」
いつもの時間に、家を出ていつものように真ちゃんを迎えに行く。土曜だから今日は朝から夕方までみっちり練習が詰まってやがる。
誕生日だからって、何も変わらねぇ。その事に、ほんの少し寂しさを感じつつ門の前で腕を組んでオレを待っている真ちゃんの元へとチャリを走らせた。
「遅かったな。1分の遅刻なのだよ」
「ブハッ、1分とか。少しくらい多めにみろよ」
「フン」
恒例のじゃんけんをして、結局オレがチャリを漕ぐ。別に誕生日だからって期待していたわけじゃねぇけど、相棒からの「おめでとう」って一言がないのもなんとなく悲しいモノがある。
あんだけ宣伝したんだし、まさか忘れてるって事は……ねぇよな?
赤信号の時に、ちらりと真ちゃんを見たら「なんだ?」と、不思議そうな顔をされてしまった。
コイツ、マジで忘れてんのか!?
まぁ、野郎の誕生日なんて一々覚えてるわけねぇか。
……冷てぇよなぁ。
オレは、覚えてんのにな。つか、忘れたくても忘れらんねぇし。
好きな奴からおめでとうって、言って貰えないってだけでこんなにもテンション下がるなんて知らなかった。
つか、どんだけだよオレ。

アレ……?
あんだけ、皆に言って回ったから一人くらい覚えてるだろって思ったのに、体育館へ行っても皆普通と変わらねぇ態度。
あれ〜〜??
オレ、宮地さんにもちゃんとオメデトーて言ったよな?? 木村さん時も言ったし。つか、皆で祝ったし!
オレの時だけみんな忘れてる?
もしかして、オレってみんなに嫌われてたのか?
一つの答えに行きついて、血の気が引いて行くのが自分でもわかった。なんだか一気に目の前が暗くなる。
「オラ! ぼーっとしてんな高尾! やる気ねぇなら帰れ!!」
バシッと頭を叩かれ、我に返った。
「サーセン!」
そっか、オレ嫌われてたのかよ。つか、自分の誕生日に気付きたくなかったな。
正直、キツい。
けどま、別にプレゼントが欲しかったわけじゃねぇし。ただ……おめでとう! って一言言って貰いたかっただけなんだけどな。
他の誰が忘れててもいいけど、せめて真ちゃんだけは覚えててくれたら良かったのに。
「――じゃぁ。今日はここまでだ。明日は休みだから各自きちんと身体を休めるように!」
「お疲れっした!」
監督の解散の合図で、みんな一斉に帰り支度を始める。
何時もならもう少し残って練習をしていく所だけど、今日はとてもそんな気分にはなれない。
「……おい。何処に行くのだよ」
オレも便乗して帰ろうと荷物をまとめていると、不意に後ろから呼び止められた。
「何処って帰るんだよ」
「なっ!? ……今日は……残らないのか?」
「んー、今日はパスしようかと思って。悪いな、真ちゃん」
オレがそういうと、真ちゃんがあからさまに狼狽した様子をみせた。
「なに? オレが居ないと寂しいワケ?」
「……ッ……あぁ。もう少しだけ、俺に付き合うのだよ」
「へっ!?」
てっきり、そんなハズないだろう馬鹿め! とかなんとか言うかと思ったのに、予想外の言葉が返って来て間の抜けた声が洩れた。
「し、真ちゃん。今、なんて?」
「俺の練習に付き合え。それとも急用でもあるのか?」
「や、ねーけどさ……熱でもあんじゃねぇの?」
「俺は正気だ! その……もう少しだけ、一緒に居たいと思ったのだよ」
「…………」
視線を逸らし、眼鏡をカチャカチャとせわしく押し上げながら、なぜだか突然のデレを発揮する。
嫌なのか? と、訊ねられてオレは慌てて首を振った。
「全然嫌じゃねぇし! つーか、むしろ嬉しいって」
誕生日忘れられてても、一緒に居たいって言われただけで超嬉しいとか思っちまってる。
オレって本当に単純、だよなぁ。
でもま、いっか。
それから、何時ものように二人で新技の練習をしたり、1on1やったりして過ごしていると不意に真ちゃんの携帯が着信のメロディを告げた。
「――はい。わかりました……」
ちらりとオレを見て、電話を切るといきなり帰り支度を始める。
「なに、もう帰るのかよ」
「あぁ。お前も行くのだよ」
「???」
今度は早くしろと急かされる。一体なんなんだよ。若干、コイツに振り回されてるような気もするけど、真ちゃんが横暴なのは何時もの事だ。


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