No title

(緑間SIDE)
「なぁ、今日って練習あったよな? なんで真ちゃんが此処にいるんだよ」
放課後、荷物を持って保健室へ行くと俺に気付いた高尾がベッドの端に座りそう尋ねてきた。
何故? 答えなど解っているくせに俺の口から言わせたいのだろうか。
質問には答えず、再び額を近づけ体温を確認する。皮膚が触れ合う瞬間、高尾が息をクッと詰めるのがわかった。
「……っ」
「まだ、熱は高そうだな。……立てるか?」
「立てるっつ〜の! つか、大丈夫だって! 一人で帰れるし」
差し出した俺の手には掴まらず、ベッドから降りると自分は元気だと言わんばかりにアピールしてくるが、まだ本調子でないのは火を見るより明らかだ。
「無理をするな、馬鹿め」
二人分の荷物を持って保健室を出ると、高尾は戸惑いつつもついて来る。
「なぁ、真ちゃん部活は?」
「今日の我儘3回分で交渉してきたから、何ら問題ないのだよ」
「ぶはっ、今日のわがままって、アレまだ有効だったわけ?」
「無論だ。不測の事態に備えてちゃんと貯蓄しているのだよ」
「ちょっ、わがままの貯蓄ってなんだよ。最近、わがまま言ってねぇなって思ってたけどまさかの貯金!?」
「ああ、あと残り51日分は残っている」
「ブフッ、しかもちゃんと数えてるんだ」
ケタケタと可笑しそうに笑う高尾の姿に何処かホッとしつつ、駐輪場へと向かう。
「高尾。今日は特別にじゃんけんナシでリアカーのうしろに乗せてやっても……いいのだよ」
「いや、大丈夫だって! そんな気ぃ使ってくれなくても」
「何を言っているのだよ。まだ、こんなに熱が高いと言うのに」
「……ッ」
額も熱かったが、頬や首筋はもっと熱い。
「そ、それは……真ちゃんが、触るからだっつーの……」
「!」
頬を赤らめて、上目遣いで俺を見ながらぼそりと呟くその姿にドキリとした。
俺が触れると身体が火照る……だと!?
自分で何を言っているのかわかっているのだろうか? あざと過ぎるのだよ。
「とにかくさぁ、オレはマジで大丈夫だから! 今日はリアカー諦めて歩いて帰ろうぜ!」
「またお前はそうやって……無理はしていないな?」
「してねぇよ! へーきへーき! たまには、歩いて帰るのも悪くねぇだろ?」
「……」
もっと俺を頼ればいいのに、それをしないのが高尾和成と言う男だ。
意外と頑固な奴だから、今日はもうリアカーは置いて帰るつもりなんだろう。
「真ちゃん、オレの鞄……」
「このくらいは俺に持たせるのだよ」
「……わーったよ。じゃぁ、任せるわ」
サンキュ。とかなんとか言いながら、屈託のない笑顔を見せる。
たまには、こういう日があったって悪くはない。
途中、どこぞの高校生カップルが手を繋ぎながら歩いている場面に遭遇。
まぁ、それ自体は珍しい事ではない。
それを見ていた高尾が、ほんの一瞬だけ寂しそうな表情になったのを俺は見逃さなかった。
「……高尾」
「ん、どした? って……真ちゃん!?」
振り返った高尾の肩を抱き、引き寄せる。
「わ、ちょっ何? どーしたんだよ!?」
「五月蠅い、騒ぐな」
「さわぐなって言ったって……肩に手が……目立つだろ?」
「俺は構わん」
「オレが構うんだっつーの!」
言いつつ、本気で嫌がっているわけではなさそうなので、肩を抱いたまま歩みを進める。
「真ちゃん、今日はどうしちまったんだよマジで」
「イヤなのか?」
「い、嫌じゃねーけど……」
「だったら何も問題はないのだよ」
「問題あるって! 男同士で肩抱き合って帰るとかどう見ても変だろ?」
「何を今更。毎日自転車でリアカーを引いている方が余程変だろう」
「ハハッ、変だっつー自覚はあったのか。つか、そーじゃなくて!」
「じゃぁなんなのだよ?」
訊ねると、高尾は耳まで真っ赤に染めたまま俯き、「恥ずかしいんだっつーの」と蚊が鳴くような声でそう呟いた。
恥ずかしい……か。なんて可愛い奴だ。
いつも校内でが自分から抱き付いて来るくせに何を今更。
「真ちゃんが慣れない事すっから、オレは恥ずかしくて仕方ねぇんだよ。気付よ馬鹿ッ」
文句を言いつつ、離れようとしない。
言っている事と行動が矛盾しているが、それもまた可愛く思える俺は相当重症に違いない。
コイツは自分から懐いて来るくせに、こっちが何かしようとすると遠慮して離れて行ってしまう。
もっと俺に依存すればいいものを。
風邪をひいた時くらいは俺に甘えればいい。

「……たまには、こういう日もあるのだよ」
思わず口元に笑みが浮かび、文句を言いつつ凭れ掛かってくる高尾の頭をクシャリと撫でた。


[prev next]

[bkm] [表紙]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -