No title

その日、高尾はいつものように相棒で恋人でもある緑間真太郎の家へ遊びに来ていた。
普段、素っ気ない態度の彼ではあるが、二人きりの時は妙にスキンシップを取りたがる。
誰も知らない彼の素顔を見るのが、高尾はとても好きだった。
特に何をするわけでもなく、緑間に背を預けまったりとしていると、テーブルに見慣れない紙袋があることに気が付いた。
手を伸ばして中を確認してみれば、美味しそうな丸いドーナツのようなモノが入っているではないか。
形はいびつだがふわんとドーナツ特有の甘い香りが袋の中から漂っている。
彼の妹が作ったのだろうか? 自分もよく妹に、実験だと称して作ったお菓子の味見係をさせられているのでなんとなく想像はつく。
「なぁ、真ちゃん……コレ、食ってもいい?」
丁度小腹がすいていたので、返事も待たずに紙袋の中へと手を伸ばした。
多少パサパサしているものの、食べれない程ではない。
「なっ!? それはダメなのだよ!」
「え? ダメだったの? 悪い、一個食っちまった」
「なんて言う事だ。 高尾、何処かおかしなところはないか?」
青くなって、心配そうに尋ねて来る。
「真ちゃん何焦ってんだよ。普通のドーナツだったぜ?」
「普通!? 由々しき事態なのだよ」
「ブハッ、ナニソレひでー!」
非常事態だとばかりに慌てる姿があまりにも可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
妹が頑張って作ったものに対して失礼じゃないか。
「んな事言ったら、妹ちゃん可愛そうじゃねぇか」
「妹? 何を言っている。それは桃井作ったものなのだよ」
「へ? 桃井……桃井って桐皇のマネ?」
桃井と言えば、物凄く頭のキレるおっぱいの大きな美人さんだったような気がする。
青峰の幼馴染で、中学の時は何度も彼女の立てた予測に助けられたと緑間がべた褒めしていたのを思い出してなんとなく嫌な気持ちになった。
そんな彼女からのプレゼント?  なんでわざわざ緑間に? もしかして、彼女は緑間の事が好き、なのか……?
二人が笑いあっている姿を想像し、胸の奥にモヤモヤとした思いが広がってゆく。
「なんで真ちゃんが彼女からお菓子なんて貰うんだよ」
不満げに尋ねると、緑間は盛大な溜息を吐いた。
「それは青峰が俺に毒見をさせようと勝手に押し付けて来たもので……」
「は? 毒見? 何言ってンの?」
確かに形はいびつだが味は自分の妹が作るものと大差ない。そもそも、混ぜて揚げるだけの料理に毒見も何もあるわけがないじゃないか。
なんでそんなバレバレの嘘を吐くのだろう。
複雑な気分で高尾はドーナツを睨み付け、拳をぎゅっと握りしめ徐に袋の中へと手を伸ばした。
「真ちゃんが食わねぇなら俺が全部くっちまうからな」
「なっ!? 馬鹿止めろっ! そんな事をしたら命の危機なのだよ」
「ブハッ、大げさ過ぎんだろ。そんなに俺に食われるのがイヤだったら……大事に隠しとけば、良かった……のに……」
言いながら猛烈な睡魔に襲われた。なんだろう? 一つ目を食べた時には何も無かったのに。
なんで、こんなに眠いのだろう? まさか本当に毒入りだった、とか?
遠くの方で緑間が何か言っているような気がするが、眠すぎてよく聞き取れない。 意識が徐々に遠ざかってゆく。
「おいっ、どうした高尾! しっかりするのだよ!! 高尾っ!」
ゆさゆさと激しく身体を揺さぶる振動にすら猛烈な睡魔は勝てずに、ふわふわとした気分で高尾は深い眠りへと堕ちていった。


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