No title

「この問題には、この公式を当てはめて……」

真ちゃんの整った指先が、真っ白なノートにさらさらとペンを走らせるのを俺はぼんやりと眺めていた。

マジで綺麗だよな真ちゃんの左手。本人みたいにすらりとしてて細くて綺麗で。

こんなに細いのに、あのバスケットボールをミサイルのように飛ばすんだからマジですげぇ。

初めてコイツのあのシュートを見たときはマジでビビったもんな。

ポンポン、ポンポン上から糸で吊ってんじゃねぇの? ってくらい正確に容赦なくシュートを決めていく姿。

完膚なきまでに打ちのめされて、悔し涙を流したこと今でも覚えている。

……まぁ、今は違う意味で啼かされてるんだけど。

昨夜もテーピングを外した長い指先に――。

って! 何を考えてるんだよ俺は!

昨晩のあれやこれやを思い出し、慌てて恥ずかしい思い出を脳内から振り払う。

「高尾。さっきから何を一人で百面相しているのだよ」

「!」

空想に耽っている俺に真ちゃんがひょいと顔を向けた。目が合って、慌てて首を横に振る。

「な、なんでもねぇよ!」

「……? 全く、注意力が散漫なのだよ。お前が試験勉強一緒にやろうと言い出したのだろう? それを……」

「わーった! わかったから! ちゃんと集中するって!」

小言が長くなりそうだったので、姿勢を正してノートに向き合う。

真ちゃんはまだ何か言いたげに俺を見ていたけれど、嘆息して渋々と口を噤んだ。

真ちゃんの小言なげーから。説教真面目に聞いてたら陽が暮れちまう。

とは言ったものの、全然集中してなかったせいもあってノートは真っ白のまま。

試験範囲広すぎなんだよマジで。

「真ちゃーん、やっぱわかんねぇ。お手上げ」

「それはさっき説明したばかりなのだよ」

「あり? そーだっけ? 悪い聞いてなかったわ」

「…………」

あはは、と笑って誤魔化したけど冷ややかな視線が痛い。

最近、俺の頭の中は真ちゃんの事でいっぱい。

付き合ってみればこの気持ちも少しは落ち着くかと思っていたのに、知れば知るほど益々コイツの事が好きになって他の事が全く手につかない状態だ。

「お前は人事が尽くせていないのだよ」

仕方のない奴だ。と、呟いて真ちゃんが俺の隣に移動してくる。

するりと肩を抱かれて、瞬時に胸が高鳴った。

驚いて顔を上げるとひやりとした指先が頬に触れる。

「し、真ちゃん?」

ゆっくりとせまってくる真ちゃんの顔にドキドキし過ぎて体がぐらぐら揺れているように感じる程。

もしかしてこのまま――。

頬がカッと熱くなるのを感じつつ、ゆっくりと目を閉じ、そして。

――コツン。と額と額に何かが触れた。

「熱は、無いようだな」

「っ!」

吐息が掛かりそうなほど近くでそう呟かれ、勘違いで目を閉じてしまった恥ずかしさでブワッと体温が上がる。

コイツ、わざとか!? いや、意外とニブチンだから素で心配(?)してくれてんのかも。

「高尾、顔が赤いのだよ」

大丈夫か? と、訊ねられて言葉に詰まる。

そりゃ、お前のせいだっつーの! なんて心の中で呟いて笑って誤魔化す。

「あはは、そうか? ちょっと部屋が暑くてさぁ、きっとそのせい――」

全てを言い終える前に顎を持ち上げられた。僅かに微笑んだ真ちゃんがするりと唇を寄せて来て、思わず息をのんだ。

チュッ、と軽いキスが唇に落ちる。

驚いて二の句が継げなくなった俺を見て、真ちゃんが小さく喉で笑う。顎をしっかりと固定され、首を動かす事も出来ないまま、一度離れた唇がまた重なった。

しっとりと唇を吸われ、首の後ろがざわっと粟立った。

「ん……」

ほんの少し割開いた唇の間に真ちゃんの舌が滑り込んできて、遊ぶように口内を探られる。

ぬるぬると舌が絡んで、ゾクゾクするような甘い痺れが背筋を駆ける。

「ん、ふ……っ」

息苦しくなって唇を離すとすぐに追いかけて来て、塞がれる。

次第に深くなっていくキスに頭の芯が熱で浮かされたようにぼわんとした。

腰が痺れるくらい甘いキスをして、全身の力が抜けていく。

そんな俺を見て、真ちゃんがフッ、と微かに笑った気がした。

「――続きは……」

はふ、と息をついて見上げる。

ばちっと目が合った途端、真ちゃんが俺の頭を乱暴にくしゃりと撫でた。

「わ、ぶっ、なにす……」

「続きは課題が終わったら、なのだよ」

「え……っ」

あまりの発言にぽかんとする俺。

眼鏡を押し上げ、何事も無かったかのように元の位置に戻って行く真ちゃん。

「どうした?」

したくないのか? と、顔を覗き込まれ思わず小さなため息が洩れた。

「わかったよ! やればいいんだろ!」

くそっ、ソッコーで終わらせてやる!!

渋々とシャーペンを握った俺を見て、真ちゃんが満足そうに小さく笑ったのを見逃さなかった。


なんだか、上手い事手懐けられてるような気もしないけど、しゃーねぇか!

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