No title
「――って、わけなんだけどどうしたらいいと思う?」
翌日、俺は部活を早めに切り上げて、誠凛近くのマジバに足を運んでいた。
「知りませんよそんなの」
「ひっで〜お前、案外冷たいよな」
小さく息を吐いて、俺が奢ってやったバニラシェイクを啜るのは真ちゃんと同中の黒子テツヤだ。
ひょんなことから似たような性癖を持っていると知って時々こうして集まったりしている。
「いきなりメールで、”どうしても相談したい事があるから”って言うから何事かと思って来てみたらノロケ話とは……頭沸いてるんじゃないですか?」
「ノロケじゃねーし! 結構マジで悩んでるんだって。こんな事聞けるのお前くらいしかいないんだよ」
「……確かに、性の不一致は離婚原因の上位にも入ってますが」
「だろ? だからさぁ、なんかいいアイディアねぇ?」
恥を忍んで相談に来たのだから少しくらい協力して欲しいトコロ。
黒子はズズっとシェイクを吸った後、呆れたような視線を俺に向けて来る。
「素直に物足りないって言えばいいじゃないですか」
「それが言えたら苦労しねぇよ」
一応俺だって男だから、それなりにプライドとか色々あるわけで……自分から強請るとか有り得ねぇし。ドン引きされたらきっと立ち直れない。
「つか、お前だったら言えるのかよ?」
「僕は今の生活に満足してますし……むしろもっと控えて貰いたいくらいで」
黄瀬君激しすぎるから。と、ほんのり頬を染めながら黒子は言う。
「お盛んな事でうらやましいねぇ」思わずそう呟いたらギロリと睨まれてしまった。
「そんなに激しくして欲しいんだったら媚薬でもドラッグでもこっそり飲ませればいいじゃないですか」
「んな怪しいモン飲ませて真ちゃんに何かあったらどうすんだよ」
「じゃぁ一旦禁欲してみるとか」
「あー、ムリムリ。俺が我慢出来ねぇし」
「…………帰っていいですか?」
「なんでだよ!?」
くだらない。と、小さく呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「取り敢えず、面倒くさいんでシチュエーションを変えてみるってのが一番手っ取り早いと思います」
「今、さらりと面倒くせぇとか言いやがったな。あー、でもシチュエーション変える……か、いいなそれ。例えばどんな?」
「そのくらい自分で考えて下さい。女装でも裸エプロンでもなんでも好きな事したらいいと思います」
「ブフォッ! 投げやり発言かよ」
「何言ってるんですか。高尾君のノロケ話に付き合ってあげただけでも十分優しいですよ」
「だからノロケじゃねーし!」
「とにかく、僕はこの後用事があるのでもう、行きますから」
「んだよ、デートか?」
それに対しての反応は薄く、ただ一言「それは秘密です」とだけ返して黒子は席を立った。
「うまく行ってるようで何よりだな……つか、裸エプロン、か……真ちゃんどんな反応すっかな?」
流石黒子だ。さりげなく面白そうなアイディアを投下してってくれた。
ちっとばかし恥ずかしい気もするが、真ちゃんがどんなリアクションするのかを考えるだけでも面白い。
確か今週の金曜は両親も妹ちゃんも居ないと言っていたはずだ。
「決戦は金曜日か……なぁんてな☆」
楽しみなような、ちょい怖いような……。取り敢えず、エプロン見に行こうかな〜。
「サンキュ。黒子」
既に姿が見えなくなってしまった相手に礼を言い、オレも混雑し始めた店を出た。