No title

「誕生日オメデトー」
今日21日は俺、高尾和成の誕生日だ。
朝イチで両親や妹から祝いの言葉に始まり、学校に着けば仲のいいダチからちょっとしたプレゼントを貰ったりして。
いつも厳しい先輩達からもオメデトウの言葉を掛けられたり。
いくつになったってオメデトーと言われたらそれなりに嬉しいわけで。
だけど、一番「オメデトウ」と、言って欲しい人からは未だに言われず終いで軽く凹んでいたりする。
「真ちゃーん、なんか俺に言うことねぇの?」
いつも通りの帰り道、じゃんけんの準備をしながら聞いてみる。
「明日のおは朝ならグッズはもう準備してあるのだよ」
「ちげーよ!」
わざと言っているのか、本気でわかっていないのかトンチンカンな事を言う。
つか、わかってねぇワケねぇよな? 今日一日ずっと一緒に居たんだし。
「そうじゃなくて、今日が何の日か知ってんだろ?」
「……」
真ちゃんは何も言わなかった。その態度態度にムカついて思わず盛大な溜息が洩れた。
こんな事考えたくねぇけど、真ちゃんにとって俺はそんだけの存在だったって事だ。
もしかして、両思いだって思ってたの俺だけか? 
「あ〜もういいや。つか、早くじゃんけんしようぜ!」
イヤな気分を吹き飛ばしたくて、リアカーに荷物を置いて気合いを入れる。
それなのに、真ちゃんは腕を出す気配がない。それどころかその場に立ち止まったまま動こうとすらしない。
視線をさまよわせ何か言いたげに口を二、三度開いては噤んでしまう。
「どうした? 寒いんだし、早くやろうぜ」
「……高尾」
「んだよ。やっと何の日か、わかったのか?」
「今日がお前の誕生日な事くらい、知っている」
眼鏡を押し上げ、そんなことを言う。
「ただ、どうやってお前を祝ってやればいいのか。それがわからないのだよ」
「……」
「オレは今まで、家族以外で誰かを祝ってやりたいなどと考えたことはなかったのだよ。何をすればお前が喜ぶのか皆目検討もつかん……」
「真ちゃん……!」
まさか真ちゃんがそんなことを考えてくれていたなんて!
「オメデトウ」って言ってくれないとかつまんねぇことで不安になってた自分が情けねぇ。
「俺、真ちゃんのその気持ちだけで充分だわ」
「ダメだ。ソレではオレの気が済まないのだよ。お前が欲しい物を教えろ」
「ぶはっwwww なんでそんな上から目線なんだよwww」
「いいから早く教えるのだよ」
真ちゃんは頑固だから言い出したら聞かない。
オレが欲しいもの? そんなの決まってんじゃん。
「じゃぁさ……今夜、真ちゃん家に泊めてよ」
「なに!?」
「日付が変わるまででいいからさ、オレの側に居て欲しいなー……
なぁんて☆」
すっかり冷えてしまった真ちゃんの手を包み込むように握りながら言ってやる。
「それは構わないが、それではプレゼントにならないのだよ」
「あーwww 急になにがいいか? なんて言われたってわかんねーし、それは後日って事でいいだろ?」
真っ直ぐ目を見ながら笑いかけると、真ちゃんは渋々と頷いた。
「じゃ、今夜は真ちゃん家にお泊まりって事で決まりな。つか、寒いから早く行こうぜ」
チャリを押しながら空いている手を真ちゃんの腕に絡める。
ふと空を見上げると、綺麗な月が煌々と辺りを照らしていた。
「見ろよ真ちゃん! 今夜は月がすっげー綺麗だぜ」
「高尾……」
名を呼ばれて振り返る。
立ち止まっていた真ちゃんと目が合うと、躊躇うように二、三度視線を泳がせてから、意を決したように視線を真っ直ぐ俺に向ける。
「誕生日……おめでとう。なのだよ」
「――っ」
ゆっくりと静かな口調で、でも確かにはっきりと聞こえた。
俺が今日一番、真ちゃんに言って欲しかった言葉。
やっべぇ、超嬉しいんだけど。嬉しすぎてちょっとだけ泣きそうになっちまった。
「フハッ、サンキュ!」
目頭が熱くなるのを誤魔化しながら、礼を言うと真ちゃんはフイッと俺から視線を逸らした。
そして、そのままリアカーの後ろに乗ろうとする。
「オイオイオイ! まだじゃんけんしてねぇだろ?」
「結果は目に見えてるのだよ」
「誕生日位負けてやろうと言う気はねぇのかよw」
「それはそれ、これはこれだ。オレは何事にも人事を尽くす」
「歪みねぇwwww いいぜ、じゃぁじゃんけんな! じゃんけん――」
人通りの少なくなった校内に俺たちの掛け声が響き渡る。
誕プレ何を頼もうか……。
本当は、真ちゃんから貰えるものならなんでも嬉しいんだけどな!
そんな事を考えて、自然と頬が緩んでしまうのを止められなかった。



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