No title

甘く漂っていた部屋の空気を遮るように、携帯の電子音が部屋に響いた。

「……残念だったな、高尾。タイムリミットのようだ」

「へ?」

彼の言葉が理解出来なくて、思わず間の抜けた声が洩れる。

「ちょ、タイムリミットって……」

呆然とする高尾を尻目に彼は身体を離すと、枕元で鳴り響いている携帯のアラームを止めた。

「もう寝る時間なのだよ」

「は、いいいい!?」

「今日は早寝早起きを心がけるようにと、おは朝で言っていたのだよ」

さも当たり前のように言い放ち、今までの出来事など何も無かったかのように、再びナイトキャップを被りなおす緑間。

「ちょ、ちょぉ待てっ! お前、俺とおは朝どっちが大事なんだ!」

「そんなの決まっているだろう。おは朝だ」

きっぱりとそう断言し、夜の儀式を始めた彼に続きをしようという気持ちはもう微塵も残っていないらしい。

(くそっ、おは朝……!)

高尾はこの時ほどおは朝が憎いと思ったことは無かった。

おは朝に負けた自分って一体……。

虚しさは募るばかりだが、おは朝の熱狂的信者である彼には何を言っても無駄だと言うことは重々承知している。

高尾は盛大なため息を吐くと、立ち上がりフラフラと入口の方へと向かう。

「こんな時間にどこへ行くのだ?」

「……っ、便所だよ。便所!」

言うが早いか勢いよくドアを閉めた。

心とは裏腹にすっかり熱くなってしまった体は開放してやらないととても落ち着きそうにない。

もどかしい思いを抱えたままトイレに駆け込むと、誰も居ないことを確認し鍵を掛けた。

(真ちゃんの馬鹿っ! タコッ! 気付けよっニブチン! あの状態で止めるかフツウ)

いくら文句を言っても足りない。

「……はぁ、俺……こんな所でナニやってんだか」

このままじゃ、欲求不満になっちまいそう……。

薄暗いトイレの個室に篭ったまま、高尾は盛大なため息を吐いた。


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