No title

「まぁいいや。つかさー、真ちゃんいつ帰ってくんだよ」
早く会いたい。思わず言ってしまいそうになる言葉をグッと飲み込んでできる限り平静を装う。
「そうだな、新学期までには戻る予定だが」
「新学期って……まだまだあるじゃん。長げぇよ」
「そうだな、だがあっという間なのだよ」
「真ちゃんはそうかも知んねぇけどさぁ〜……」
待ってる方の身にもなれっつーの。
「高尾?」
「なんでもねぇ。ちょっと、新学期まで会えないのは寂しいなって」
「……」
思わずポロリと口にしてしまった瞬間、真ちゃんが難しい顔をして黙り込んだ。
「じ、冗談だって! んな顔すんなよ」
微妙な空気を笑って誤魔化そうとしていると、不意に画面の影がゆらりと揺れた。
「ーー高尾……」
「え?」
甘い声が鼓膜を伝う。
カメラ越しに真ちゃんの唇がゆっくりと近づいてくる。
「――あ……」
向こうの息遣いまで伝わって来そうなほどの距離に、鼓動が大きく跳ねた。
「……ぶ、あははははっ」
「!?」
思わず噴き出してしまった事に驚いたのか真ちゃんが元の位置へと戻ってくる。
「なんなのだよ」
「悪い、悪い。真ちゃんの唇のドアップとか超貴重過ぎてさぁ……そんな怒るなよ」 
ホントはすっげー嬉しかったけど、画面越しのキスなんて余計に恋しさが募るだけだ。
真ちゃんは眉間に深い皺を作り、明らかに不機嫌な表情を作ってみせる。
「ごめんて、マジで」
「……」
「笑って悪かったって言ってるだろ? 俺も色々限界だったんだよ……」
「何!?」
「こんな冷たいキスで俺が満足出来るわけねーし? ずっと我慢してんだぜ、俺……」
言っちゃダメだ。こんなの俺のわがままでしかねぇから、言っても真ちゃんを困らせるだけ。
頭ではわかってるのに、一度口をついて出た感情は抑えられそうにもない。
「真ちゃんに、会いてぇよ……。すっげー会いたい。出来ることなら今すぐにでもチャリアカーで迎えに行きてぇくらいなのに……ハワイじゃ遠すぎんだろ」
こんな冷たいキスじゃなくて、ちゃんと会って真ちゃんの温もりを感じたい。
「……」
「俺、真ちゃんがいねぇとダメなんだよ。マジで……」
言ったってどうにもならないことなのに、口に出して言葉に詰まった。
後に残るのは微妙な空気と激しい後悔。
胸が引き絞られるように痛んで息が苦しい。
コレ以上喋っていたら俺はきっと泣いてしまう。
たぶん俺は今、酷い顔をしているのだろう。そんな顔を真ちゃんにはみせたくない。
「……ごめっ、変なこと言って。そろそろ切るな。残りのバカンス楽しんで来いよ。帰って来るの楽しみに待ってるから」
「待て、高尾」
慌てて電話を切ろうとしたら、硬い声に呼び止められた。
「お前だけが我慢していると思うなバカめ」
「へ?」
「……明日には戻るから、待っているのだよ」
「えっ? 明日って、ちょっ、オイっ!」
慌てる俺をよそに、言いたいことだけ言って電話はぷつりと切れてしまった。
「ふ、はははっ……」
しばらく呆然とディスプレイを眺め、たった今言われた言葉を反芻しておかしさがこみ上げてくる。
真ちゃんも俺に会いたいって思ってくれてたって事で、いいんだよな?
しかも、明日戻ってくるとか。
きっと、あいつの事だからなんだかんだで人事を尽くして本当に戻ってくるんだろう。
嬉しいやら、恥ずかしいやらで無意識のうちに目尻に涙が滲んだ。
しゃーねーから、明日は俺のエース様を迎えに空港まで行くとするか!
明日は晴れますように。 カーテンの隙間から見える星空を眺め俺はゆっくりと目を閉じた。


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