No title

「げっ、なんだよ高尾か。こんなところで何をしてんだよ」
「ぶはっ、それオレのセリフっすよ先輩! まさかこんな所で会えるなんてびっくりって感じ? 宮地さんこういうところ来ないと思ってました」
「まぁ、人混みはあまり好きじゃねぇけど。こういう出店には結構限定商品とか置いてあったりすんだよ」
そういう彼の手には恐らく的屋で取ったと思われるアイドルグッズの袋が握られている。
「ぶはっ! マジっすか。歪みないっすね」
自分の目の前で繰り広げられる二人を見て腹の底に小さな黒い塊が生まれる。
なんてことは無い。いつもどうりの会話だ。
このくらいで腹を立てては大人げないと思いつつも、やはり何処か面白くない。
だが、高尾はこっちの気も知らず、いつもの調子で宮地と楽しそうに会話をしている。
「ただ、どうしても取れないヤツがあんだよな……遠すぎて中々当たんなくてよ」
「的当てとかなら真ちゃんに頼めばいいんじゃないっすか? 狙い定めんの得意っしょコイツ」
「なっ!?」
一体何を言い出すんだと眉根を寄せると同時に、さっき芽生えた小さな嫉妬の火種が煽られて大きくなった。
何のために今日ここに来てやったのか。高尾が全くその意味を理解していない事に苛立ちを覚える。
「おっ! それいいな。おい、緑間」
「嫌です」
「てめっ、即答かよ。轢くぞコラッ!」
頬に怒りマークを貼り付かせている宮地をちらりと見て短く息を吐くと、すかさず高尾の腕を引いた。
「……今日は気分が乗らないのだよ」
「えー、いいじゃん。真ちゃんならそんくらい朝飯前だろ?」
「五月蠅い。俺はやりたくない事はしない。……行くぞ」
「えっ、ちょっ!? どーしたんだよ急に、宮地さんすんまっせん。そういう事なんで!」
今は一刻もこの場から離れたくて、戸惑う高尾の腕を取ると人の波に逆らって緑間は足早に歩き出した。
宮地が何か言っていたようだが、それには敢えて聞こえないふりをした。
特に行くアテがあったわけではない。ただ、高尾と宮地が話をしているのが面白くなかっただけだ。


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