No title

「真ちゃん。ほら、タコ焼き美味そうだぜ」
こんな時でも高尾は良く喋るしよく動く。たった数メートル歩いただけなのに、あそこにいか焼きが売ってあるだの、リンゴ飴食いたいだのと言い出しては繋いでいた手を離し買いに行ってしまう。
しかも妙に嬉しそうにするもんだから文句を言うのも憚られ、出来立てのタコ焼きを差し出された時にはもう怒る気力すら失せてしまっていた。
「真ちゃんも食うだろ?」
はいあーん。なんて、笑いながら爪楊枝でタコ焼きを一個掬い口元に差し出してくる。
「おいっ! 人前だぞ」
「別に誰も気にしちゃいねぇっての。自意識過剰じゃね?」
タコ焼き嫌いなのかよ、美味いのに。なんて言いながら高尾は差し出したタコ焼きを少し残念そうに自分の口の中へと放り込んだ。
「別に、食わないとは言っていない」
ただ高校生にもなって“あーん”は、流石に気恥ずかしいだけだ。
「仕方がないから食ってやるのだよ」
言うがはやいか二つ目を口に運ぼうとしていた手首を掴み、自分の口元へと引き寄せた。
「えっ、ちょっ!? 真ちゃ……っ」
ソースを絡め取るようにしてタコ焼きを口に含むと、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた高尾の頬にサッと赤みが差すのがわかった。
「〜〜っも〜、真ちゃんいきなりそういう事すんのマジ反則!」
髪をきあげ、高尾が緩く息を吐く。
「手を繋ぐのもあーんも嫌がるクセにこういう事は平気とか……恥ずかしいことしてんのどっちだよ」
「なぜだ? 食えと言ったのはお前が悪いだろう」
「だから、冗談だっつーの――……あれっ?」
「どうした?」
「宮地さんがいる」
「何?」
こんな時に一番聞きたくない名前が飛び出し、たちまち緑間の表情に陰りがさした。
高尾が指差す先には確かに周囲より頭2つ分程飛び出したはちみつ色の頭が見えている。
「……この人混みの中からよく見つけられるなお前は」
「無駄に視野だけは広いからな。なぁ、声かけてみようぜ」
半ば呆れたようにそう言うと、高尾は繋いでいた手を離し宮地の元と近づいていく。
あっ! と思った時にはもう既に遅く人混みの中でもよく通る声に宮地が振り向いた後だった。


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