No title

「……てめぇら、ナニやってんだ? んなとこで」
「!?」
突然、部室のドアが開いて地を這うような低い声が響き渡り、ようやく我に返ったのか、真ちゃんがバッとオレの上から飛びのいて距離が出来る。
「神聖な部室をラブホ代わりに使ってんじゃねぇよ! マジで轢くぞ!」
あんたがそれ言うのか! と、ツッコミを入れてやりたかったが真ちゃんの手前それは止めておいた。
居た堪れない。この微妙な空気。
ちらりと目線を上げて様子を伺うとそこには茹であがったタコのように赤い顔した真ちゃんの姿。
うっわ,真ちゃん顔真っ赤……。なんかヤバくね?
まぁ、恐らくオレもすげー赤いんだろうけど。
目が合うと、ますます気まずさが募る。なにか、何かしゃべらないとヤバい。
「――あ……」
「……っ」
口を開きかけたその瞬間。びくりと肩を震わせた真ちゃんは、物凄い勢いでオレを突き飛ばした。
「うぉっ!?」
オレが怯んだその隙に、真ちゃんはカバンを掴むとロッカーのドアも閉めずにバタバタと部屋を出て行ってしまった。
何が起こったのかいまいち理解出来なくてぽかんと口を開けたまま数秒。
ようやく事態が呑み込めたオレは思わず小さく息を吐いた。
「ちょ、置いてくとかありえねー……」
「ぶっ、あははは、アイツ随分わかりやすいな」
同じく呆気にとられていた宮地さんがクックックと肩を震わせて笑いだす。
たく、気が抜けたっつーか、なんつーか。
「ところで宮地さん。なんでここに? 先に帰ったんじゃなかったんっすか?」
「ん? あぁ、忘れもん取りに来たんだよ。そしたらお前らがイチャコラ始めやがったから邪魔してやろうと思って」
腹黒い笑みを浮かべながら、何処か愉しそうな宮地さんの姿に乾いた笑いしか出てこない。
「マジいい性格してるっすね宮地さん」
「なんか言ったか?」
「い、いえ。なんもないっす」
眼光鋭く睨まれて体が竦む。ぶるぶると首を振ると真ちゃんが出て行った扉を見つめ宮地さんが肩を竦めた。
「つか……そう簡単にアイツに渡してたまるかよ……」
「へっ? 今、なんて?」
 よく聞こえなくて、顔を覗き込んだらいきなり顎を持ち上げられた。
部屋の照明を背中に受け、オレを見下ろしてくる宮地さんの顔は影になっている。いつになく真剣な眼差しを向けられて、それが妙に色っぽく見えてドキッとした。
「お前さ、俺が好きだから付き合えつったらどうする?」
「ふはっ、なにそれ。またそうやってオレをからかって遊ぶつもりっしょ」
宮地さんはオレが慌てる姿が面白いからか、よく微妙な冗談を言ってくることがある。
オレが本当は真ちゃんの事が好きだって知ってるくせに。
「残念でした。その手にはもう、乗らないっすよ〜」
「……ふぅん、そうかよ。でも今回は結構マジなんだぜ? 俺……」
「!?」
「冗談かどうか、その体で体感してみろよ」
上手くかわしたつもりだったのに、真剣な表情でそんな事を言うから二の句が継げなかった。僅かに動揺して動けないでいると、目が合った宮地さんがするりと顔を寄せてくる。
顎をしっかりと固定されて、避けきれないと悟ったオレは堪らずぎゅっと目を瞑った。
「――ッ」
と、次の瞬間。思いっきり鼻をギュッと摘ままれてしまった。
「プッ、マジお前馬鹿面。くっくっく……冗談に決まってんだろ? 俺が好きなのは推しメンのあの子だけだっつーの!」
「……なっ、やっぱり冗談だったんっすか!?」
キスを待ってるみたいに目を閉じてしまった自分が恥ずかしいのと、嵌められて腹が立つのとで、やり場のない感情がぐるぐると渦巻き体温が上がってくる。
「……やっぱ宮地さん、性格悪い……」
「なんか言ったか?」
「別に、なんでもないっす」
「ふぅん、じゃ。鍵閉めるからお前返して来いよ」
「ぅいっす」
頭をぐしゃぐしゃと掻き回して去っていく宮地さんの後姿を見つめながら、俺はひっそりと溜息を吐いた。


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