No title

その瞬間、不意に顔を上げた宮地さんと目が合ってしまった。
足が地面に張り付いてしまったかのように動けない俺をジッと見つめながら何処か小馬鹿にしたような、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どう、したんっすか?」
「ん? なんでもねぇよ。今日はこの辺で終わりにすっぞ」
「えっ? なん、で……?」
「なに、最後までヤりたいのかよ」
「ちがっ……そうじゃ、ないっす……」
俺の存在に微塵も気付いていない高尾は真っ赤になって俯き、その頭を宮地さんがわしわしと撫でる。そして、何事か耳元で囁いたかと思うとゆっくりとこちらに近づいてきた。
「……覗き見とは、ずいぶんいい趣味してんなぁ緑間」
「ち、ちがっ! 別に好きで覗いたわけでは――むぐっ」
「たくっ、うるせーよコラ。焼くぞ? 大きな声出すな。話がややこしくなる」
ドアを閉めると同時にひやりとした掌が口元を塞ぎ、俺の肩をグイと引き寄せた。
「ちょっとツラ貸せ。嫌だつったら轢く」
「……」
腹黒い笑顔でそう言いながら、腕を引っ張られた。
どうせ俺に拒否権などないのだろう。

「話とはなんですか?」
人気のない屋上へと辿り着き、ようやく解放された俺は本日幾度目かの溜息を吐いた。
肌に刺すような冷たい風が吹き、思わず眉間に皺が寄る。
「くっそ、寒みーな。面倒だから単刀直入に聞くわ。お前、アイツの事好きか?」
ざぁっと、一際強い風が俺たちの間を駆けた。
なぜ、そんな事を俺に聞く? 宮地さんの真意がわからない。
「……わかりません」
「わからない?」
「はい」
アイツは、クラスメイトで、チームメイト。俺の事を一番よく理解してくれている良き「友人」の筈だ。
昨日までの俺なら間違いなくそう答えていただろう。
だが、先ほど見た光景が目に焼き付いていて離れない。
初めて見る高尾のあんな姿に興奮を覚えてしまった自分に正直戸惑っている。
同性の濡れ場なんて嫌悪の対象でしかないはずなのにこの感情は一体なんだ?
不意に湧き上がってきた高尾に対して正体不明の感情が俺を混乱させる。
「わからない。ねぇ……アイツも報われねぇな」
「は?」
言っている意味が分からなくて首を傾げると、宮地さんがスーッと目を細めて言った。
「じゃぁ……アイツ、オレが貰っていいよな」
「!?」
「オレ、結構気に入ってんだよ高尾の事。うぜぇと思う時の方が多いけど、気は利くし身体の相性もいいしな。お前が高尾の事何とも思ってないつーんなら、もう気を遣ってやる必要もねぇだろ」
「なっ!?」
一体何を言っているのだよこの人は。
高尾を貰う? それってつまり高尾が宮地さんのモノになるという事……。
「それは駄目です!」
「あ? なんでだよ、お前、高尾の事なんとも思ってねぇんだろ?」
「……っ」
宮地さんの眉間に深い皺が寄る。不機嫌そうに睨まれて俺は言葉を返す事が出来なかった。
「フン、まぁいい。でも俺はマジだから」
俺の心を知ってか知らずしてか、宮地さんは鼻で笑いさっさと屋上のドアを開けて降りて行ってしまった。
俺は高尾の事をどう思っているんだ? そんな事、考えたこともなかった。
だが、高尾が宮地さんのものになるなんて……、アイツの隣に並ぶのが俺じゃないなんて、そんなのは嫌なのだよ。
自分で自分の気持ちがわからない。このモヤモヤとする感情は一体なんだ?
理解できない感情に振り回されるのは本意ではない。
俺はどうしたらいいんだろうか。どうしたらこの感情の正体を知ることが出来る?

昼休み終了のチャイムを何処か遠くに聞きながら、俺は深い溜息を吐いた。


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