No title

「ははっ。そうだな、悪い……」
「手術はいつだ? インターハイには間に合わないのか?」
「真ちゃん気が早すぎ〜。同意書がソコにあんのに手術する日が決まってるわけねぇじゃん。それに俺、手術は受けないよ。実はまだこんな状態だってこと親にも言ってねぇし」
「何っ!?」
頭を撫でていた真ちゃんの動きが止まり、目をこれでもかと言うくらいに見開いて戸惑っている真ちゃんの気配を感じる。
あまりにも想像通りのリアクション過ぎて、なんだか可笑しい。
「なぜだ!? 手術を受ければ元に戻るのだろう?」
「よくわかんねぇけどさ、目の神経触るから成功率は半分なんだと。しかも成功したとしても元の視力には戻らないかもしれない。後遺症が残る可能性だってあるんだって。そういわれてる。 目にメス入れるのは怖いし、遅かれ早かれ見えなくなるんだったらさ……ギリギリまで見えてた方がいいじゃん?」
「高尾お前、何を言って……」
「でも、そろそろマジでバスケ続けるのは無理もしんない。もっと真ちゃんと……バスケ、したかったんだけど」
鼻の奥がツンとしてきて、目頭がじわりと熱くなる。
泣かないように慎重に言葉を紡ぎ、俺のカミングアウトに驚いて固まってしまっている真ちゃんの手をそっと握りしめた。
「今まで黙っててごめんな。つか、まだ見えてるし、そんな心配すんなって」
本当は3年間ずっと一緒にバスケやってたかった。真ちゃんのシュートを放るきれいな放物線をもっと見ていたかった。真ちゃんに的確なパス出せんのは俺だけだし、今年こそ赤司を倒す! って、二人で誓ったのに。
なんで今なんだよ! なんで、卒業してからじゃないんだ。
なんで、なんで、なんで……!
「ほんっと、ごめ……っ。赤司一緒に倒すって約束も、守れそうにねぇわ」
悔しくて、惨めで、情けなくて。真ちゃんの前では絶対に泣くもんかって決めていたのに、堪え切れない感情が胸につかえて今にも溢れ出しそうだ。
「高尾、手術を受けるのだよ」
「は? ちょっ、人の話聞いてなかっただろお前。手術してもし失敗したら俺、失明すんだぞ?」
「遅かれ早かれ失明は免れないのだろう? それに、成功率が半分だと言ったな? 元に戻る可能性が1%でもあるのなら、受けるべきなのだよ。自ら光を失いに行くなんて馬鹿げている」
「どうせ俺は馬鹿だよ! 確かに手術したら元に戻るかも知れないけどさ、それでも怖いんだよ! 一分一秒でも長く、真ちゃんの姿が見たいんだよ俺は! もし失敗したらもうお前の姿が見えなくなるんだぞ!? そんなの俺……きっと耐えられねぇよ……」
もう、止まらなかった。一度堰を切った感情は次から次へと溢れてきて視界が涙で歪む。
「見えなくなったらお前の側にいれなくなっちまうじゃん。チャリアカーだって引けないし、お前の姿を追うことも出来ない。バスケ出来なくなることよか、そっちの方がつれーよ」
「…………」
真ちゃんは何も言わなかった。代わりにぐいと引き寄せられて広い大きな胸元に抱き込められる。
鼻腔をくすぐる優しい柔軟剤の香りに余計胸が苦しくなった。
「本当にお前は馬鹿なのだよ。言っていることが矛盾している。見えなくなるのは嫌だが手術は受けたくないなんてガキの我儘じゃあるまいし……例え手術が失敗したとしても、お前の側に居てやる。チャリアカーだって今度は俺が引いてやるし、もしも見えなくなったら、俺がお前の光になってやるのだよ」
「ふはっ、何それ……なんか、新手のプロポーズみてー」
「だから茶化すなと言っている。お前がどんな姿になったって、俺は側にいるから……高尾、お前も人事を尽くせ」
ぎゅっと抱きしめてくる力が強くて、なんだか息苦しい。だけど、俺よりずっと大きな真ちゃんの身体が僅かに震えていることに気が付いて、なんとなく気恥ずかしさが込み上げてくる。
「真ちゃんまで泣いてどうすんだよ〜……」
「五月蠅い黙れ! お前が人事を尽くさないからだ!」
「ぶはっ、なんだよ、それ」
俺が側に居てやるから人事を尽くせ……か。
大切なエース様にそこまで言わせちまったら、従うしかねぇよな。


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