No title

目を開けると、ぼやけた視界に見慣れた天井が映り込んだ。
俺、いったい……?
「気が付いたのか、高尾」
「!?」
真ちゃんの声がする。慌ててそちらを振り向いたら薄暗い部屋にきれいな緑色の頭が視界に映った。
「……っ俺一体……」
「お前は、練習中にボールが頭を直撃して倒れたのだよ。監督は軽い脳震盪だろうとは言っていたが起きないので俺が家まで運んでやったんだ」
「ぅえ、マジかよ? そっかぁ、ごめんな真ちゃん」
練習中もボールの位置は全部把握してたつもりだったのに、見失って直撃とかマジで不覚!
「最近様子がおかしいとは思っていたがお前、何処か悪いのか?」
「ははっ、やだなぁ真ちゃん。俺は何処も悪くねぇよ」
「じゃぁこれはどういう事なのだよ?」
ずいっと目前に突き付けられたのは、机の上に置きっぱになっていた手術の同意書。
「……っ」
笑って誤魔化そうとしていた俺は、自分の頬がひきつるのをはっきりと感じた。
やばい、何と言って誤魔化そう。
なんて言えばいい? コレだ! っていう言い訳が思いつかない。
重苦しい沈黙が続くこと数分。
ぼやけた視界でも、真ちゃんが怖いくらい真剣な顔をしているってのはよくわかる。
これはもう潮時なのかもしれねぇな。
「……あー、実はさ俺、最近視力が急激に落ちてて……」
「何!?」
「目の使い過ぎっつーか……裸眼じゃもうほとんどなんも見えない状態なんだよな〜。進行性の病気みたいで、ほっとくと完璧に見えなくなっちまうんだと」
暗い雰囲気にはしたくなかったから、敢えていつもの調子で言ってみた。
真ちゃんが息を呑む音が静かな室内に響き渡る。
目が見えにくくなってからと言うもの、代わりに耳が若干良くなったような気がする。
「なぜそんな大切なことを早く言わなかった?」
「なんでって……」
言えるわけねぇじゃん。俺は、一分でも一秒でも長く真ちゃんの側に居たい。見えなくなるギリギリまで真ちゃんの姿をこの目に焼き付けていたいのに。
「心配してくれてんの? 真ちゃんてば、やっさしー」
「茶化すな。全く……どうりで最近動きがおかしいと思ったのだよ」
「ごめんな。でも、今が一番大事な時だし、みんなに迷惑かけたくなくてさ」
「だからお前はだめなのだよ。自分より周りの事ばかり優先して。怪我でもしたらどうするつもりなんだ」
スプリングが軋む音がして、真ちゃんの重みでベッドがわずかに沈む。くしゃくしゃと頭を撫でられて不覚にも胸が熱くなってしまう。


[prev next]

[bkm] [表紙]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -