No title

「高尾、最近のお前は顔が怖いのだよ」
「ぶっは! 何いきなり。どーしたんだよ」
部室で着替えていると、真ちゃんが俺の顔を見るなりそう言った。
「つーか、酷くね? こんな美少年つかまえて顔が怖いとか」
「思ったままを言っただけだ。眉間に深い皺を寄せて……何を怒っている?」
「……っ、別に、怒ってるわけじゃねぇよ」
ぎくりとした。周囲に視力の低下がばれないよう、出来る限り普通にしてるつもりだったけれど、やっぱり物を見ようとすると眉を寄せて目を凝らさないと見えないわけで、どうしても眉間に皺が寄ってしまう。
怒ってるように見えんのか、俺。
自分の顔ってどうなってんのかわかんねぇもんな。

医者から手術を進められたあの日から、気が付けばもう数か月が経っていた。俺と真ちゃんにとって2度目のインターハイ出場をかけた予選も始まり、今年も決勝で誠凛と当たる予定になっている。
今年こそあいつらに勝つ! と意気込む真ちゃんの負担になりたくなくて試合や練習中はホークアイをフル稼働して必死についていってはいるけれど、相変わらず俺の視力は落ち続ける一方だ。
あの日以来、病院には行っていない。
この間風呂場でコンタクトを外した自分の姿を改めて鏡で見てみたけれど、ぼやけ過ぎて人だかなんだかわからなくなっていた。
そういや、夏の合宿で真ちゃんがライオンと俺間違えてたよなぁ。なんて事を思い出して笑えたけど、多分今の俺ってあの時の真ちゃんより目ぇ悪いんじゃないか?
なんとなく、そんな気がする。
大坪さんとか宮地さんに相談してみようかとも思った。けど、バスケ辞めて手術しろって言われんのが怖くて、結局誰にも相談出来てない。
親にももちろん言えないし、真ちゃんには……真ちゃんにだけは出来れば知られたくない。
バスケ出来なくなる事より真ちゃんの側に居られなくなることのほうが辛い。
だから知られちゃいけないんだ――。
「――高尾っ!」
「……えっ?」
真ちゃんの声にハッとして顔を上げた。その時にはもう既に遅く、目前にボールが迫っていて――。
咄嗟にボールを掴もうとしたけれどガツンと頭部に強烈な衝撃が走り、視界がぐらぐらと揺れる。冷たい体育館の床に倒れこむ大きな衝撃音と共に俺の世界は暗転した。



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