No title
「っ……う……っ」
目を開けると、見覚えのある天井と照明が飛び込んで来た。
ガバッと起き上って辺りを見回す。そこは紛れもなく俺の部屋で、薄く開いたカーテンの隙間からうっすらと月明かりが差し込んでいる。
あれは、夢……だったのか?
制服はきちんと整えられて、外されたはずのベルトもきちんとはめてある。
でも、自分の手首にうっすらと赤い痕を発見してどきりとした。
どうやって帰って来たのかは覚えていない。
だけど、確かに俺は真ちゃんに教室で無理やり……。
冷たい真ちゃんの態度や、強引な腕を思い出してゾッとする。
「ぅあ〜。明日っからどんな顔して真ちゃんに会えばいいんだよ〜」
「お兄ちゃん、五月蠅いよ!」
頭を抱えて悶えていると突然部屋のドアが開いて妹ちゃんが顔を出した。
「もう身体は大丈夫なの?」
「へっ!? ぇえっと……、まぁ」
心配そうな声にぎくりと身体が強張る。
「部活中に倒れたって聞いたから心配したんだよ。……お兄ちゃん頑張り過ぎなんじゃない?」
「……そっかぁ、あはは悪い悪い。ほら、俺一番へたっぴだからみんなについてくの大変なんだよ」
「うちまで運んで来てくれた緑間さんに感謝しなきゃ」
もうすぐご飯だって。と、言い残して閉じられた扉を見つめそろりと息を吐いた。
そっか、真ちゃんが家まで運んでくれたんだ……。
何気なく天井を眺めながら、学校であったことを思い出す。
『お前はオレの物だ』『お前はオレだけを見ていればそれでいい』
「ふはっ……」
真ちゃんって案外嫉妬深かったんだな。
大事にされてるって自覚はあったけど、あそこまでとは……。
でも、なんつーかちょっと嬉しいかも。
ふとサイドボードに置いてあった携帯を見てみると、一通のメールが届いていた。
送信者は真ちゃん。
『さっきはすまなかった』
たった一言だけの短いメール。でも、きっとすっげー真ちゃんが反省してんのが伝わって来る。
俺は気にしてねぇから大丈夫って、返信したら直ぐにもう一通返って来た。
『昼間の彼女には、断りのメールを送っておいたからお前は何も気にする必要はないのだよ』
「ぶっ! あはははは! 真ちゃんマジか〜! つーかどんだけだよアイツ」
勝手に返事するとか、マジねーわ。
でも、不思議と怒りは沸いてこない。それより携帯でメール打つの苦手な真ちゃんが、彼女になんて送ったのかがすっげー気になる。その姿を想像すっと笑える。
愛されちゃってんのね、俺。
こりゃ一生、浮気とかできねぇわ〜。
笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙をぬぐいながら、手首に付いた赤い痕をそっと撫でた。