No title

「……あのさ、一つ聞いてもいいか?」

合宿一日目を終え、ようやく与えられた部屋に戻ってきた高尾は、同室である緑間真太郎に声を掛けた。

「どうした?」

「どうした? じゃ、ねぇよ。さっきから何してんの?」

「見たままなのだよ。ストレッチをしている」

「へぇ、ストレッチねぇ。じゃ、なくて! そんくらい見てわかるっつーの! 俺が聞きたいのは、なんで今ストレッチしてんのか? って事」

ナイトキャップを被り、真顔でストレッチを黙々と続けている光景は、なんだか異様とも言える。

練習も終わって、やっと二人きりの時間が来たのに!

「なぁ、やっとキツイ練習から開放されたんだし一緒にテレビでも見ようぜ?」

そう誘ってみても返事はない。

それどころか、緑間はストレッチが終わるとさっさと布団に潜り込んでしまった。

「えっ、ちょ。なに、もう寝るのかよ!? 早過ぎじゃね?」

あまりに驚いて、高尾は自分の携帯を開いて時刻を確認する。

いくら練習で疲れていると言ってもまだ一〇時にもなっていない。

「何を言っている。一〇時には布団に入るのは当然なのだよ。寝不足は肌に悪い」

俺は人事を尽くしているのだよ。と、当然のように言い捨てて眼鏡を外すと枕元に置いた。

「一〇時に寝るとか、小学生か!」

こんな早くに寝るなんて信じられない。高尾はポカンと口を開けたまま、不思議な生物でも見るような目でみつめる。

そして、ハッと気がついた。

(この時間に寝るって事はもしかして……今夜は何もなし!?)

「……マジで?」

愕然として、恐る恐る目を閉じている緑間の顔を覗き込む。

「なぁ、真ちゃん。マジで寝ちゃうわけ?」

「あぁ。お前も早く寝るのだよ」

「こんな早くに寝れるわけねぇだろ!」

思わずツッコミを入れて、ため息が洩れた。

(マジで寝るつもりだコイツ。信じられねぇ)


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