No title
「あ〜、真ちゃんバッドタイミング〜」
「なに!?」
「すみません、先輩。相方来ちゃったみたいなんで、ココじゃあれなんで返事はまた今度でいいっすか?」
答えはもう決まっているけれど、人前でフるとかそんな非情な事は流石に出来なくてそう笑いかけたら、先輩は小さくコクりと頷いた。
「これ、私のメアド。連絡、待ってるから!」
最後にきゅっと手を握られて、掌に小さな紙を握らされる。
女の子の手って……あんなに柔らかかったっけ……。
ふわりと長い髪を靡かせて教室から出て行く先輩の後姿を熱に浮かされたような頭で見ていると、いきなり肩を強く掴まれた。
「今の女はなんだ?」
顔を上げると、眉間に深い皺を寄せて鋭い眼光を俺に向けている真ちゃんが視界に映る。
「あ〜、っと実は告られちゃって……俺も案外モテるみたいだわ」
貰った紙切れをポケットに突っ込み、笑いかけると真ちゃんが忌々しげに彼女が去って行った方向を睨みつけた。
「真ちゃん、どーした?」
「……なぜ、直ぐに断らなかったのだよ」
地を這うような低い声がする。雰囲気だけで、真ちゃんがすげー怒ってんのがわかる。
「いや、断ろうとしたらお前が来ちまったんだよ。真ちゃんが居る前でフったりしたら可愛そうだろ? 誰か見てるとこで断るとか、んなデリカシーのない事は流石に出来ないっつーの」
「本当にそうか? 鼻の下を伸ばしてデレデレして見苦しい」
真ちゃんが小さく舌打ちをして眼鏡のブリッジをくいと押し上げる。
「んだよ、ヤキモチか?」
「そうだ。……お前が、他の誰かと話しているだけでも腹が立つと言うのに、誰もいない教室で女と二人きりなどと……」
ぎりっと音がするほど奥歯を噛みしめる音が響いて肩を掴んでいる指先に力がこもる。
「ふはっ、真ちゃんでも嫉妬とかすんのな〜。つか、痛てーよ。安心しろって、俺は真ちゃん一筋だから」
「信用出来んな。さっきも嬉しそうな顔をしていたのだよ」
「そりゃ嬉しいっしょ。あんな美人に告られたら男としては喜ぶべきだし。それと付き合う、付き合わないは別――ぅおっ!?」
そう言った瞬間、真ちゃんがいきなり俺を机の上に引き倒した。