No title
「ちょっといいかな。話があるんだけど」
放課後、誰も居なくなった教室で真ちゃんを待っていると校内でも指折り数える美人だともっぱらの噂の先輩に声を掛けられた。
「し……緑間への手紙とかなら、俺は渡しませんよ。つか、告るなら直接そっちに行って下さい」
最近、俺を告白の媒体にしようとするヤツが後を絶たない。
真ちゃんは近寄りがたい雰囲気を醸し出してるから渡し辛いんだろうけど、俺だっていい気はしないわけで。
最近は真ちゃん絡みだと思ったら先にはっきりと突き返す事にしている。
きっと今回もそうなんだろうと踏んでいたんだけれど、先輩は小さく首を横に振った。
「緑間君は関係ないの」
「――え?」
「……私、高尾君の事が好きなの。付き合って貰えないかな?」
上目遣いで見つめられて思わず喉が鳴った。普段見上げる側だから、こうやって見つめられるのはなんだか新鮮でドキドキしてしまう。
真ちゃんほどでは無いけれど、キメの細かい肌だとか、柔らかそうな唇だとか、お人形さんのように長い睫毛に目が離せない。
開けっ放しになっていた窓から風が吹き込んできて、鼻腔を擽る甘い香りに自然と鼓動が早くなっていく。
「えっと、えっ、あの……マジっすか?」
正直言って信じられない。なんかの冗談か、ドッキリか?
意志の強そうなくりっとした瞳に俺の姿が映り込み、息をのんだ。
きっと真ちゃんとの事が無かったら、俺は二つ返事でOKしてるはずだ。
こんな可愛い娘から告白されるなんて、俺結構イケちゃってんのかな?
色々な事をぐるぐると考えながら見つめ合う事数秒。震える唇で返事をしようと口を開きかけたその時。
「……何をしている」
突然、入口の方から声がして彼女の視線に釘付けになっていた俺はハッと我に返った。