No title

そしてバレンタイン当日。学校が終わった後、高尾の誘いで緑間は彼の家へと遊びに来ていた。

高尾の鞄の中には例のチョコレート。

思い切って購入してみたものの、いざ渡すとなるとどうしても躊躇ってしまい現在に至る。

「いや〜、宮地さん凄かったな。やっぱモテる男は格が違うわ〜」

他愛もない話をしながら、今日廊下で久しぶりにすれ違った宮地の事を思い出す。

あらかじめ用意していたのか紙袋をぶら下げた宮地は少々げんなりとした様子だった。

俺、甘いの苦手なんだよな……。なんて、チョコが一つも貰えない男子からしてみれば羨ましすぎるボヤキを洩らしながら歩いていた。

「オレにはあの人の何がいいのかさっぱりわからないのだよ」

「ふはっ、真ちゃんキビシー。宮地さんカッコいいじゃん。超怖いけど」

そう言った瞬間、緑間の眉間に深い皺が寄る。

「……」

「なに、もしかして妬いちゃった?」

急に怖い顔をして押し黙った緑間の顔を覗き込むと、彼はフンと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。

「何故オレがあの人に妬く必要がある? 意味がわからないのだよ」

「たく、相変わらずツンデレだなお前。……あ、そーだ! コレ、やるよ」

ツンとそっぽを向いてしまった相方に苦笑しつつ鞄の中から箱を取り出す。

そっと差し出すと、緑間はちらりと視線を寄越し眼鏡のブリッジを押し上げた。

「俺からの本命チョコ。いらねーつったら高尾ちゃん泣いちゃうぜ?」

「フン、それはそれで五月蠅くてかなわんから一応貰っておいてやるのだよ」

「ブハッ、んだよそれ」

ひったくるように高尾の手から奪い取り、ソレをジッと見つめる緑間は何処となく嬉しそうだ。

その表情に多少の罪悪感は感じたものの、薬の効果が知りたくて身を乗り出す。

開けてみろよと、促してやれば珍しく緑間はそれに従った。綺麗な金色の包装紙に包まれたチョコレート。その見た目からはとても何か仕込んであるようには見えない。

「ど、どうだ?」

「どうと言われても、普通のチョコの味なのだよ。何故そんな事を聞く?」

「えっ? や、ホラ、んーっと……やっぱ気になるじゃん。好きな奴にやるのに不味か
ったらイヤだし……」

口から適当に出まかせを言ったら、お前は買う時に味見もしないのかと苦笑されてしまった。食べてみるか? と、勧められたが高尾はぶるぶると首を振る。

「せっかくお前にやったんだから俺はいい」

「そうか? 案外イケるのだよ」

「ちょっ、真ちゃん食い過ぎだろ、ソレ。チョコは味わって食べるモンだぜ?」

二個、三個と口に入れていく緑間に焦り、高尾は彼の手から箱を奪うとローテーブルに置いた。コレが普通のチョコレートなら特に気にも止めないが、媚薬入りだ。効果がわからない以上過剰摂取は色々と心配になる。


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