No title
真ちゃんの家に着くと、いつも出迎えてくれる真ちゃん似の綺麗なお母さんは居なかった。
聞けば、昨日から親戚の法事の手伝いに行っているらしい。
「適当に座っていろ。勝手に物を触るなよ」
リビングに促され、言われるがままソファに腰かけると、真ちゃんはそのままキッチンへと向かった。
別に俺に気なんて遣わなくてもいいのに。
でも、あの真ちゃんが俺の為にお茶入れてくれるなんてちょっと嬉しい。
けど……。
「――あの、緑間サン? なんかさっきからすっげー焦げ臭いんだけど、大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫なのだよ! お前は座っていろ!」
一体何をしているのか皆目見当もつかないけれど、キッチンから漂ってくる焦げた匂いが俺の不安を掻き立てる。
お湯沸かすだけだろ? 何が焦げてんだよ一体。
真ちゃんって、なんでもソツなくこなすイメージあるけど、料理はへたっぴだったんだな。新発見だ。
そんな事を考えながら待っていると、ようやく完成したらしい何かを持って真ちゃんがキッチンから出てきた。
「飲むのだよ」
「ブハッ、散々人待たせといてそれかよ! ま〜いいけど」
ぐいっと差し出されたソレは琥珀色の飲み物。一瞬コーヒーかと思ったけれど、何処となくドロッとしている。フワンと鼻腔を擽る香りはやけに甘ったるい。
「ココア? じゃ、ねぇな。こんなにドロドロじゃねぇし……」
「いいから早く飲め!」
「へいへい」
すっげー不味かったらどうしようとか、色んな事を考えながらマグカップに入った謎の液体に恐る恐る口を付けた。
恐ろしく甘ったるい香りから喉に張り付くような甘さを想像していたけれど、口の中に広がるまったりとしたコクのある味わいは意外にも飲みやすく、コクンとそれを嚥下すると舌の上にほんのりとほろ苦さだけが残る。
「どうだ、美味いか? 美味いだろう?」
不安げな真ちゃんの顔が可笑しくてつい噴き出しそうになるのをグッと堪えじっくり味わうようにして二口目を口に含む。すると、何やら小さな固形物が混ざっている事に気が付いた。どろりとした食感と口の中でとろける舌触りはおそらく……。