No title
「緑間君、はいコレあげる!」
放課後、帰る準備をしていると突然クラスの女子に呼び止められた。
そっと差し出された小さな包みをマジマジと見つめ、真ちゃんは眼鏡を押し上げながら短く息を吐く。
「すまないが、それは受け取れない」
「えっ」
「プレゼントは好きな人からしか受け取らないと決めているのだよ」
きっぱりハッキリそう言って、何事も無かったかのように教室を出て行ってしまう。
「真ちゃんさ〜、ちょっと酷くね? あの子、すっげー泣きそうな顔してたぜ」
「何故だ? 気持ちに応えてやれないのがわかっているのに、変に気を持たせたら可愛そうなのだよ」
「いや、そういうこっちゃなくて……」
慌てて後を追いかけて真ちゃんの横を歩きながら、困ったエース様の持論に溜息が洩れた。
例えどんな事情があったとしても、女の子は泣かしちゃダメだって俺は思うんだ。
「真ちゃん重く考え過ぎだろそれ、別に応える、応えない関係なしにさ、受け取るくらいしてやっても良かったんじゃねぇ?」
朝からオレが知ってるだけで、少なくとも一五人くらいは受け取りを拒否されている。
靴箱や机の中に忍ばせてあったチョコ達は、無造作に今日のラッキーアイテムであるエコバックの中に放り込まれていた。
チョコが貰えるか貰えないかの瀬戸際にいる男子に知られたら、絶対にボコられるレベルだ。マジで。
今は友チョコとか、色んなのがあって昔に比べて随分と渡す敷居が低くなってるっつーのに、いくら説明しても真ちゃんには理解できないらしい。
お陰で俺は、真ちゃんにチョコを渡すチャンスすら失ってしまったわけで……。
女子でダメなのに、俺なんかのを受け取ってくれるわけねぇじゃん。
「……お前は、貰ったのか?」
「へ? あ〜、うん。まぁ……そこそこな」
朝からぽつぽつと貰い続けて、鞄の中はチョコレートだらけだったりする。
「……」
俺がそう言った途端、真ちゃんの眉間にグッと深い皺が寄った。
「ぶはっ! 何その顔、もしかして妬いちゃった?」
「馬鹿を言うな。なぜオレがヤキモチなど……!」
フン!と鼻を鳴らし、眼鏡をくいと押し上げてそっぽを向く。
大体お前は節操がないのだよ。とかなんとか、ブツブツと文句を言いながら少し歩くスピードを速めた真ちゃんの後を慌てて追いかけていると、突然ぴたりと足を止めた。
「おっぶ、あっぶね〜。いきなり止まんなって」
思いっきり背中で鼻をぶつけてしまい、星が数個目の前で瞬く。
痛む鼻を押さえながら見上げると、真ちゃんが躊躇いがちにこちらを見ていた。
「真ちゃん?」
ジッと俺を見つめたまま、動きが止まってしまった真ちゃんに首を傾げ、一体どうしたのかと顔を覗き込む。
「いや……」
ふいと視線を逸らした真ちゃんは、ぎこちなく視線を彷徨わせたあと、ぽつりと言った。
「ちょっと家に寄って行くのだよ」
「いーけど、珍しいな」
「……」
真ちゃんは何も答えずさっさと先に行ってしまう。
その頬が僅かに赤く染まっていたように見えたのは俺の気のせいだろうか?