No title

「大体さぁ、下僕ってなんだよ、下僕って。真ちゃんマジで冷たすぎ」

「五月蝿いぞ高尾」

「だってさ〜……」

不満を募らせる俺が気に食わなかったのか、突然真ちゃんが俺の腕を引いた。

建物と建物の間の細い路地に連れ込まれ、真ちゃんの長くて綺麗な指が顎にかかる。

「うわっ、ちょ……なに」

「少し、黙っているのだよ」

「――えっ」

……うっわ、真ちゃん。まつげ長い。

じゃなくて!

「ン……ッ」

唇に、柔らかな感触が触れている。真ちゃんの唇が、俺のソレを塞いで……。

嘘みたいだ。

俺、真ちゃんとキス……してんのか?

自分の事なのに信じられなくて、ドキドキして指先が震える。

「し、真ちゃ……っ」

心臓が痛いくらいに鳴って胸が苦しい。膝が今にも崩れてしまいそうだ。

「機嫌は、治ったか?」

そっと唇を離して、囁くように真ちゃんが余裕の笑みをみせる。

「……っ、なんで、いきなりこんな……」

「お前を黙らせるにはこれが一番だと思ったからなのだよ」

お前がキスをしたいと言いだしたのだろう? と、言われてしまえば反論する言葉がない。

自然と赤くなった頬をどうすることも出来ずに俯いていると、真ちゃんが小さく息を吐いた。

「――俺がソノ気になれば、お前をモノにするくらいわけないのだよ。そうしない理由に気付かないとは……」

「それって、どういう……?」

俺の質問に答えは返って来なかった。

真ちゃんは眼鏡を押上げると何事も無かったかのように路地裏から出ていこうとする。

「帰るぞ。高尾」

呆然と立ち尽くしていた俺の手に真ちゃんの長い指が絡む。

「あ、手……」

「嫌なのか?」

ほんの一瞬だけ、真ちゃんの表情に不安の色がさした。

嫌なわけ、ねぇだろ。

返事の代わりに、俺はそっとその手を握り返す。

もしかして、俺……自分が思っている以上に真ちゃんから愛されてる?

そう思ったら、自然と笑みが溢れてしまう。

「また締まりのない面になっているぞ」

「うるせぇよ。しょうがねぇだろ? 思いがけずチュー出来たんだし……」

これで嬉しくない方がどうかしている。

「フン、キス一つで喜ぶとは安い男だな。お前は」

「なっ、ひどっ」

「冗談なのだよ。合宿では……お前が俺を愉しませてくれるのだろう?」

耳元でそう囁いて、真ちゃんは眼鏡を押上げ位置を整えた。

ほんと、合宿……楽しみだよな。色んな意味で!


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