No title
ある日一人で商店街を歩いていると、バレンタインコーナーの前でウロウロしている不審な男子を見付けた。
モテないから、自分に渡すためにチョコ物色してんのかな〜。カワイソ。
込み上げてくる笑いを堪えながらその横を通り過ぎようとして、その顔が何処かで見たことある事に気付く。
短いサラッサラの艶々した黒髪、切れ長の瞳、真ちゃんには遠く及ばないけれどそれなりに整った顔立ち。――間違いない!
「もしかして、誠凛の伊月さんですよね」
「えっ? あっ、君は秀徳の……」
「どーも♪ 高尾ちゃんでっす☆」
「は、はぁ」
わざと明るくウインクまで付けてやったら、伊月さんはリアクションに困ったように視線を泳がせた。
つか、ノリ悪りーな。オレがただの馬鹿みたいじゃん!
「ところで伊月さん、こんなトコで何やってんっすか? モテない自分の為のマイチョコ選び?」
「馬鹿にすんなよ! コレでもウチのバスケ部の中じゃ一番モテてるんだぞ! なんでかみんな直ぐに逃げてくけど……」
「ふはっ、なにソレ」
まぁ確かに伊月さんは顔はそこそこいい方だと思うから、モテないってのは当てはまらないのかもしれない。
でもじゃぁなんでチョコをガン見してたんだ? この人。
「――もしかして、好きな子に渡すチョコ探してたりして?」
「!」
ガシッと肩を組んで耳元でそっと尋ねてみたら、まさにボッと音がするんじゃないかって位赤くなった。
「なっ、ちがっ、べ、別に俺はっ」
「ぶっ! くくくっ……」
何その反応! あまりにもわかりやす過ぎるその反応が、オレの笑いのツボを刺激する。
笑っちゃダメだ。一応センパイなんだから、ココは堪えないと!
「なんでもいいだろ!」
図星刺されたのがよほど恥ずかしかったのか、マフラーに顔半分埋めてふいっとそっぽを向く。
「まぁまぁ……伊月さん。オレで良かったら一緒に探しましょうか?」
「えっ?」
「一人でこんなトコうろつくの勇気いるっしょ。丁度オレもチョコあげたいヤツいるんでついでに」
ニッと笑いかけたら、伊月さんは戸惑いながらこくりと頷いた。
「その代り、後で教えてくださいよ? 伊月さんの好きな人」
「えっ、い、嫌だっ! それは教えられない」
「ブハッ! なにそれっ!」
この人、マジ面白れー。でもま、今度黒子に聞きゃわかるか。
こうして、野郎二人のチョコ探しが始まった。