No title
「一緒に……帰るんじゃないのか?」
「なんで? 俺といると時間の無駄。なんだろ。真ちゃんも早く帰れば?」
「べ、別に! お前と帰るのが時間の無駄などと言ったわけでは無いのだよ!」
そう言うつもりで言ったわけではない。とかなんとか、珍しくモゴモゴと口籠る。
「じゃぁどういうつもりで言ったんだよ。俺とは一緒に買い物行けないのに、女の子の誘いは断らねぇとか、意味わかんねぇだろ。俺結構傷ついたんだぜ?」
さっきの光景を思い出して、また胸が締め付けられるように苦しくなってくる。
真ちゃんはぐっと押し黙り、困惑した様子で肩を掴んでいた手を離した。
「…………しいからなのだよ」
「え? 悪い真ちゃん、今なんつった?」
声が小さすぎて、なんて言ったのか聞き取れなかった。
恐る恐る顔を覗き込んだら、耳まで真っ赤に染めた真ちゃんと目が合った。
「は、恥ずかしいのだよ! お前が側に居るだけでドキドキして胸が苦しいくらいなのに二人きりで一緒に何処かへ出かけるなどとても出来るわけがないのだよ!!」
「ふへっ!? な、なんだよそれ……」
キーンと耳が痛くなるほどの大声で叫ばれて、俺は面食らってしまった。
つか……それが真ちゃんの本音――?
「じ、じゃぁ俺が手を繋ごうつっても、無視してたのは俺の事が嫌いだったからとかじゃなかったって事かよ……ぶっ、は、あははははっ!」
「何がおかしい!?」
「可笑しいに決まってんだろ! だって真ちゃんが……あはははははっ!」
まさか真ちゃんがそこまで俺の事を想ってくれていたなんて知らなかった。
それが堪らなく嬉しくて、ホッとしたら気が抜けた。
かくりと膝が笑って立っていられなくなった俺を真ちゃんが慌てて抱きとめてくれる。
「良かった。真ちゃんに嫌われてなくて」
「だからお前はダメなのだよ……嫌いな奴の傍に居るほどオレはお人よしではない」
真ちゃんの綺麗な指先が頬を撫でて目尻に浮かんだ涙を親指で掬いとる。
「へへっ、そっか……たく、わかりにくいツンすんなよ。結構不安だったんだからな?」
「そうか。それは悪かった」
真摯に詫びて額に軽く唇が触れた。
ゆっくりと顎を持ち上げられて視線が絡む。
「大好きだぜ、真ちゃん」
「……ッ、あぁ」
言葉の代わりに、強く抱きしめられてゆっくりと唇が近づいてくる。
本当はちゃんと言って欲しいけれど、まぁいいや。
真ちゃんの気持ちがわかっただけでも満足、かな。
ゆっくりと目を閉じて、俺達は触れるだけのキスをした。
高校で初めてできた恋人との関係は想像していたモノより甘くはないけれど、
ゆっくり行けばいいかな?
俺たちの恋はまだ、始まったばかりだから――。