No title
「おい」
放課後、帰り支度をしていると、珍しく真ちゃんの方から声を掛けてきた。
「高尾。何を怒っているのだよ」
「別に、怒ってねぇよ」
それだけ言うと、鞄を持って立ち上がる。
「怒っているじゃないか。午後の授業から一言も喋らないし、一度もオレと目を合わせようとはしない」
どういう事なのだよ!? と、問い詰められて、俺は小さく息を吐く。
目を合わせようとしないってのは事実だ。
今のモヤモヤした気持ちのままじゃ真ちゃんに言わなくていい事まで言ってしまいそうだから黙ってるだけで、決して怒っているわけじゃない。
目を見たら泣いてしまいそうで、見れないだけだ。
って、言うかマジで珍しい。俺が話しかけないのがそんなに気になるのか?
コレはもしかしたら真ちゃんの本音を知るチャンスかもしれない。
「だから、怒ってねぇって。つか、俺いつもいつも真ちゃんの事見てるわけじゃねぇし? じゃ、お疲れ。また明日な」
「……おい!」
横を通り過ぎようとしたら勢いよく肩を掴まれた。
「なに? これから俺、ダチとマジバ行くんだけど。待たせてるから用があるなら早く言ってくんねぇ?」
ちょっと突き放した言い方をしたら、俺の肩を掴んでいた真ちゃんの指先がピクリと震える。
目をこれでもかと言うくらいに見開いて、驚きに満ちた表情をしているんだろうなって事くらい顔を見なくてもわかる。